夏祭りが近づいてきた祝日。
私はねねちゃんに誘われて、海沿いに広がる大きな公園――海浜公園に赴いていた。
今日は春陽くんの日だ。
春陽くんは病院の検査の後で、合流することになっている。
バスと列車を乗り継いだ先にたどり着いた公園は、まるでテーマパークのような雰囲気だった。
入口では噴水がしぶきを上げ、離れた場所には大きな観覧車まで見えた。
「しずちゃん、お待たせ!」
私が噴水の脇で待っていると、ねねちゃんが私の前まで駆けてきて微笑んだ。
「ねえねえ、今日は観覧車が半額なんだったって。ねねっ、行こう! はるくんが来たら、観覧車に行こう!」
ねねちゃんはそう言って、私の手を掴んで引っ張っていこうとする。
「あのね、ねねちゃん」
私は引かれるままに、ふと気になったことを訊いた。
「どうして、この公園なの? この臨海公園は県外で、随分離れた場所にあるよね。観覧車なら、もっと近くにもあるのに」
「それは……」
ねねちゃんはどこか焦ったように口ごもった。
その様子で、私は直感する。
「何か大切な話があるの? もしかして以前、この公園に来たことがあるとか?」
「そそっ、そういうわけじゃないんだけどね……」
ねねちゃんは慌てて否定していたけど、それは裏返しの肯定に聞こえた。
ねねちゃんは前に、この公園に来たことがあるんだ。
それに、ねねちゃんの大切な話って何だろう?
私は春陽くんにメールで待ち合わせ場所の変更を伝える。
そして、目的地である観覧車を目指して、公園を散歩した。
初夏の風は潮の匂いがして、あちこちで咲く夏の花を優しく揺らしていた。
近くには様々なキッチンカーが出店しており、美味しそうなワッフル屋さんもある。
「あっ、ワッフル! しずちゃん、まずはワッフルを食べよう! わたしはチョコレートのワッフルにするー」
「うん。私はストロベリーのワッフルにしようかな」
ねねちゃんに釣られて、私はワッフル屋さんに足を向ける。
店員さんが慣れた手つきでワッフルを作っていくのを眺めながら、ねねちゃんは嬉しそうに口を開いた。
「しずちゃん、ベンチで座って食べよう」
「うん。美味しそうだね」
店員さんが笑みを浮かべながら、ワッフルが入った箱を私たちに差し出した。
空いているベンチに座ると、ねねちゃんは小さな箱に入ったワッフルを美味しそうに食べる。