部屋を出て、リビングに行くと、既に朝食の香りが漂っていた。

「雫、おはよう」

お母さんは今日も明るく、私をリビングに招き入れる。
テーブルには焼きたてのトーストと苺ジャムが置かれている。そして、半熟の目玉焼きに野菜サラダが並んでいた。
いつもより早く起きたからか、珍しくお父さんがいる。

「おはよう。お父さん、お母さん」
「雫、今日はいつもより早いんだな」

私は椅子に腰掛けると、お父さんが声をかけてきた。

「いつもより、早く目が覚めたの」
「上機嫌だな。何かあったのか?」
「それは秘密」

春陽くんたちのことを思うと、淡く優しい時間が流れて、じんわりと心に温かさが広がる。

「だって、好きな人たちに好きになってもらいたいから」
「好きな人たち!? 『たち』って、どういうことだ!?」
「帰ってきたら、改めて説明するね。好きな人と同じ人が、もう一人存在してるなんて初めてなんだもん」

心配性のお父さんが我知らず、反応する。
そんな私たちのやり取りを、お母さんが微笑ましく見つめていた。

「雫、帰ってきたら、きちんと説明するんだぞ」
「じゃあ、行ってきます」

慌ただしいお父さんの声を置き去りにして、朝食を済ませた私は元気よく外に出た。