翌日、私はいつもより早く目が覚めてしまった。
布団から抜け出し、窓際まで歩き、カーテンを開ける。
朝焼けの空。それを映す一面の海。それだけが視界を埋め尽くす。
「秋斗くんと春陽くん、どちらも救いたい。でも、どうしたらいいんだろう」
私は机に置いてある小箱から、はるくんがくれたリボンを手に取る。
「はるくん、どうかどうか、私に大切な人たちを救う力をください」
昨日、はるくんのお母さんが語ってくれた真実は私の思い出を彷彿させた。
はるくんが私たちに特別なプレゼントをくれた、あの優しい春の日の記憶のように。
「幸せでいてほしい人たちが、『共依存病』の進行で苦しんでいる。その人たちは、はるくんにとっても大切な存在なの」
私は目を閉じて一つ深呼吸をすると、大切な人たちの名前を呼んだ。
「秋斗くん、春陽くん……」
私の声に呼応するように、机の上に置いてある携帯が震えた。メールが来たみたいだ。
画面に映る送り主は『春陽くん』。
思わず、どきりとした。
まるで心の中を見透かされたような気がしたから。
私はスマートフォンを手に取って、メールの文章に目を通した。
『おっす、雫。昨日はドタバタしてごめんな。放課後、昨日のことで聞きたいことがあるんだ。校舎裏のところで待っていてくれないか?』
今日は春陽くんの日だと分かって、私は知らず頬を緩める。
聞きたいことって、やっぱりはるくんのお母さんのことだよね。
はるくんのお母さんはもし、秋斗くんと春陽くんが『共依存病』の真実について知りたいと願ったのなら、伝えてもいいって言ってた。
その事実は静かに重く、私の胸を衝く。
春陽くんは双子の兄弟である、はるくんのことを知ったら、どう思うのかな?
春陽くんとはるくん。二人のことを思うと、心の内側が温かくなるのを感じる。
『おはよう、春陽くん。私も、春陽くんに昨日のことで話したいことがある。それと再来週の日曜日、私とねねちゃんと一緒に夏祭りに行かない?』
私は携帯を操作し、文字を打ち込んで送信ボタンを押した。
『おう、その日は大丈夫だ。夏祭り、楽しみだなー』
すぐに春陽くんから返事が返ってきた。
放課後、二人きりで校舎裏で話すのも、みんなで夏祭りを楽しむのも、どちらも素敵なことで想像するだけで心が弾む。
この恋の行き先が……春陽くんの胸の内が気になっている。
私、やっぱり春陽くんのことが好きだ。
その想いは先程まで抱えた不安を上回り、私は柔らかく微笑んだ。