「苦しかった時、辛かった時、陽琉はすぐに駆け寄ってきてくれてね。『お母さん、大丈夫だよ』、『悲しいのは禁止』って。陽琉の優しい笑顔にいつも救われた。それに……陽琉は大切な人のためなら、誰よりも強くなれる子だったの。どんな困難にも立ち向かっていった。あの子の優しさと強さに、私は何度も何度も救われた」
そう言うはるくんのお母さんの目には光るものが浮かんでいた。
忘れることのない想い出は、二人の間に今も確かに。
「えへへ、『ごめんは禁止』ですよねー」
「そうそう。いつも、陽琉はそんな感じだったわ。それに……陽琉に、秋斗と春陽のことを教えたら、『兄弟に会いたい』って何度もせがまれて困ったこともあった」
冗談めかして言うねねちゃんに、はるくんのお母さんは朗らかに笑った。
思い出すのは……はるくんと過ごした穏やか日々。
だからこそ、願っていたことはただひとつだったのに。
「どうすれば、あの時、陽琉を守れたのかな」
「……はるくん」
自嘲するように笑むはるくんのお母さんの姿に、私は思わず息が詰まる。
はるくんに似た春陽くんとどれだけ言葉を交わしても、消せない事実がここにあった。
はるくんはもういない――。
それはもう絶対に変えることのできない真実として私たちに深く深く根付いている。
そして、はるくんのお母さんの最愛の息子の一人を失ったことによる絶望は計り知れない。
「私が必死に『共依存病』の研究に励んでいたのは、あの子たちの将来のために必要だと感じたから。その研究の際に、あの子たちに纏わる『共依存病』の真実を知ったの。だから、いつか来る別れの前に、あの子たちの未来を救いたかった」
思わず、と言ったようにはるくんのお母さんの口から滑り落ちた言葉を、私は瞬時に理解できなかった。
ただただ、その言葉の意味を――秋斗くんと春陽くんが抱える現実を改めて直視する。
私たちは春陽くんの時間を取り戻す方法を求めて、キーパーソンとなる……はるくんのお母さんを探していたんだ。
私は大きく息を吸い込むものの、それでもしばらくは心の規律が取れなくて、ぽつりと呟くことしかできなかった。
「はるくんたちに纏わる『共依存病』の真実……」
「それが、はるくんたちの未来に繋がっているの……」
「――っ」
私とねねちゃんの驚いた様子に、はるくんのお母さんは慌てて口元を押さえる。
とはいえ、一度、零れ落ちた言葉は取り消せない。
はるくんのお母さんは観念したように息を吐いて、ちらりと私たちを見た。