「今回のコンクール、高校生の部、ヴァイオリン部門の一位は三宅秋斗さんです。受賞、おめでとうございます!」
コンクール主催者の声が、会場いっぱいに響き渡る。
さらに他の入賞者が選ばれ、受賞した人たちは壇上に上がっていく。
「秋斗くんの演奏、すごかったね」
「うん。めちゃくちゃ感動したー」
私とねねちゃんは感無量の面持ちで喜ぶ。
やがて、秋斗くんが授賞式を終えて席に戻ってくる。
「秋斗くん、おめでとう」
「あきくん、おめでとうー」
「篠宮さん、鳴海さん、ありがとうございます」
私たちは顔を見合せ――やがて、まるで温もりを確かめ合うように微笑する。
私たちは席を立つと、そのまま二重構造の扉を開けて外に出た。
「あ……」
初夏の日差しを感じたその刹那、私は目を奪われる。
外では、中年の男性と女性が険悪な雰囲気で睨み合っていたからだ。
激しい言い争いのような声が聞こえてくる。
「無理なものは無理だ。もう、私たちに関わるな」
精悍な顔立ちで凛とした佇まいの男性は苦々しげに吐き捨てた。
「秋斗と春陽の親権は私が持っている。『共依存病』についても、こちらで何とかする。これ以上、口出ししてくるな」
「なによ、それ! 『はる』の親権は私が持っているでしょう!」
「それは『桐島陽琉』の親権であって、『三宅春陽』の親権ではない!」
「――っ」
男性の断言に、女性は顔に悔しさを張り付ける。
まるで信じていたものに裏切られたような表情だった。
「え……?」
「あの人って……?」
様子を窺っていた私とねねちゃんは口論している女性の方を見て思わず、顔色を変える。
「はるくんのお母さん……!」
男性と言い争っていたのは紛れもなく、はるくんのお母さんだった。
ええ……と。
ど、どういうことなの……?
今の話は内容的に、はるくんのお母さんは秋斗くんと春陽くんのことを知っているような言い回しだったけど……。
状況に思考が追いつかない。
そもそも何が原因でそんな話になっているのか、私たちには分からない。
でも、秋斗くんは男性の方を見て、更なる驚愕の事実を口にした。
「父さん……」
――瞬間。どくん、と、心臓が高鳴った。
「え……」
「それって……」
私とねねちゃんの声が震える。呼吸が乱れた。
幽かな予感が私たちの中で膨らんでいく。
秋斗くんたちのお父さんとはるくんのお母さんが知り合い――。
その事実は私の中ですとんと腑に落ちた。
だって、春陽くんとはるくんはすごく似ていたから。
声が、容姿が、さりげない仕草が、明るくて穏やかな性格が。
春陽くんを構成する要素、全てがどうしようもなく、苦しいくらいに、はるくんに似すぎている。
全てが瓜二つだと言ってもいいほどだった。
だから、私たちは少しずつ春陽くんに惹かれていった。