「だから、大丈夫だよ。絶対に離ればなれにならないよ。私達の繋がりはそう簡単に切れたりしない」
「そうだな。俺もそう思う」

笑顔の向こう。春陽くんのその声はそんなところから聞こえたように感じた。

「あのさー、鳴海さん。はるくんのこと、忘れなくていいからな」

壊れやすい思い出をなぞるように、春陽くんは優しく言葉を紡ぐ。

「月並みな言葉だけどさ。誰かの心に想いが残っている以上、本当の意味で忘れられたとは言えないんじゃないかと思う」
「……うん」
「たとえ、いつか記憶が薄れても、その想いだけは決して消えずに遺されているんじゃないかと思うんだ。だから、絶対に離ればなれにならない。大丈夫だからな」

まるで安心していいからな、と言ってくれているようで、私もねねちゃんも心が凪いだ。

「俺ははるくんじゃないけど、はるくんって呼んでもいいからさ。鳴海さん」
「その、はるくん。できれば、苗字じゃなくて『ねねちゃん』って呼んでほしいなー」
「いや、それはさすがに、出会ってすぐに馴れ馴れしいというか……」
「はるくん、どうかお願いします!」

ねねちゃんは持ち前の順応力で、ぐいぐいと春陽くんの逃げ道を塞いでくる。
思わぬ応酬を前にして、春陽くんは困ったように私に話を振った。

「……雫も、別の呼び方の方がいいのか?」
「私は……今までどおり、呼び捨ての方がいいな」

私は少し間を置いた後、素直な声音を零す。
そして、私とねねちゃんの視線が春陽くんに集中する。

「……分かった」

もう言い逃れはできないと悟ったのか、しばらく沈黙した後、春陽くんは肩を落として言葉を吐き出した。

「これからもよろしくな、雫、ねねちゃん」
「うん」
「えへへ。はるくん、ありがとう」

私とねねちゃんは顔を見合わせて、喜びを分かち合う。
たとえ痛みを生じても、苦しみに悶えても、私たちはこれからも大切な人の傍にいたかった。

――願わくば、どうかこの一瞬を忘れないようにと。そう思いながら。