車の玉突き事故。あの事故ではるくんは亡くなった。

私たちに突きつけられたのは、あまりにも非情な現実だった。

それまで当たり前のように続けてきた会うことも、触れることも、話すことも、笑い合うことも。
その全てが奪われて、残酷な世界に私たちだけが放り出されたと思っていた。
死というものはそれほどまでに冷たい断絶になるのだと、絶望的に思い知らされた。

それなのに……私はどうして、今まではるくんのことを忘れていたんだろう。
あんなにも大切だった人のことを。

その答えは一際、激しく、私の胸を衝く。

あ、そうだ。あの時、私は……。

私の心に弾かれたように、あの日の記憶が蘇ってくる。

はるくんが亡くなってから……ずっと家に引き込もって泣き続けていた。
いつしか、はるくんが死んだことを認めたくなくて……自己防衛のように、はるくんと過ごした記憶に蓋をしていたんだ……。

気がつくと、私は泣いていた。
過去だけがどこまでも優しくて、どうやったってそこに戻れない現実が悲しい。

春陽くんとはるくん。
顔も声も、ふたりが鏡写しのようにそっくりであるという事実を、嫌というほど証明している。

でも――。

答えはとっくに出ている。
全部、分かっている。
でも、それをきちんと自分の口から説明するのは勇気がいることだった。

「……ねねちゃん、やっぱり人違いだよ。彼は三宅春陽くん……。はるくん……。桐島(きりしま)陽琉(はる)くんじゃないの……」
「はるくん……じゃない?」

ねねちゃんの声と表情には衝撃が張り付いていた。
その剣幕に驚きつつも、私は改めて説明する。

「春陽くんは『共依存病』という難病の影響で、今まで学校を一日置き、空けて登校していたの」
「『共依存病』……」
「うん。『共依存病』の主な症状は、二つの身体に同じ人格が宿っていること。身体は別でも、心は一つという一心同体の不思議な病気でね。この病気に罹った人は一日置きに身体が入れ替わるの。そして、いずれ、魂がどちらかの身体に紐付き、どちらかが死んでしまうという残酷な病気……」

ねねちゃんは突然に繰り出される春陽くんの境遇についていけない。ぽかんと思考停止している。
私は思い出した記憶をそのままなぞる。

「はるくんは『共依存病』じゃなかった。一日置きに休んだりすることもなかった。だから、はるくんと春陽くんは別人だよ」
「そう、かな……」

私の説明を聞いても、ねねちゃんは納得できていないようだった。