土曜日。私は朝から携帯を持って外を歩いていた。
時折、春陽くんとメールのやり取りをする。
はたから見たら、私は携帯を見たりいじったりしながら、一人で時々、微笑んで歩いていく、さぞかし怪しい人に見えるだろう。
列車に揺られ、約束の駅には九時ちょうどに到着した。
春陽くんは既に改札口の近くに立っていて、私を見つけて微笑むと手を振ってくる。

「おっす、雫」
「おはよう、春陽くん」

カジュアルな服装に身を包んだ春陽くんは人当たりのよい顔をしている。
土曜日に春陽くんに会うのは何だか新鮮で、少しだけ胸が昂るのを感じた。

「じゃあ、行こうか」
「おう」

改めて春陽くんを見ると、さらさらした髪に表情は柔らかく、端正な顔立ちをしている。

春陽くん。やっぱり、かっこいいな。

土曜日の街は私の心と同じで、どこか浮ついている。
大通りは手を繋いで歩く家族連れや仲睦まじいカップルたちで賑わい、まだシャッターが閉まっている店頭は数十分後に迫る開店を待っていた。

これって……何気に、二度目のデートってことになるのかな……?

その時、まっすぐに向けられた視線に気づいて、私は慌てて身体ごと向きを変えた。
無性に顔が熱い気がして、その熱を逃がすように口を開く。

「あのね、私は春陽くんの味方だよ。だから、その……病気のことで苦しまないで……」
「おう、大丈夫だからな。一人じゃないしー」
「秋斗くんがいるから?」

私は意識して声にするけれど、どうしても自信なさげな小声になってしまう。
それに何故か、先程から心臓のあたりがすごく痛い。

「それもあるけど、やっぱー、雫がいるからかな。だからさ、笑えよ。雫は笑っている姿が一番だから」
「……うん」

その言葉に、私の顔が輪をかけて赤くなるのを感じた。
大好きな人からの嬉しい言葉って、本当に心臓に悪い。
私はただただ狼狽えるしかなくて。

「ずるい……」

そう思うしかない。
だって……こんなに、こんなにも私を――喜ばせてくれるなんて。

恋心を胸の奥底にしまって本心を見ないふりをし続けるのが単なる逃げなのだとしたら、私はどうしたら良いのだろう。

これから向かう友達の家まではあと少しだ。
私は随分と春のように火照った顔で、まっすぐまっすぐ、友達の家へと続く道を歩いていった。