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「春陽くん……」
不安なのか、期待なのか、懺悔なのか、願いなのか、分からない。
春陽くんはいつもと同じように、クラスメイトたちと談笑していた。
彼を見つめている私の胸は複雑な感情で壊れそうなくらいに高鳴っている。
私は春陽くんに消えてほしくない。確かに今、ここに春陽くんがいるなら、それでいいよ。
物静かで感情をあまり表に出さない秋斗くん。
そして、今ここにいる温厚な雰囲気の春陽くん。
私はどちらも大切に思ってしまっている。それは誤魔化しようのない事実だ。
もう二度と大切な人を失いたくない……。
あの日のように。
あの日……?
『しずちゃん、いくらでも悩めばいい。ただその後、しっかり前さえ向ければ』
その声に懐かしい気持ちがこみ上げてきたけど、記憶は霧のようにぼやけていて、それ以上は思い出せない。
記憶に点在する小さな違和感が一つの可能性を映し出そうとしている。
それがはっきりと形を持つ前に、私は席を立った。
二時間目の休み時間。決心が鈍る前に、私は春陽くんに声をかける。
「春陽くん、聞きたいことがあるんだけど」
「俺もだ。俺も雫に相談したいことがある」
内心、気が気ではなかったのは、春陽くんも同じだったみたいだ。
放課後、私たちは人気のない校舎裏で落ち合った。
「春陽くん、最近、秋斗くんの時が多くなってきたよね。欠席することも増えたし……」
「ああ。あまり考えたくないけど、俺の――春陽の時の時間が減っているとしか思えないよな」
私が抱いた疑問を紐解くように、春陽くんは事実をありのままに述べた。
これはかなり脅威な話だと思う。
今は三日で済んでいるが、もしもこのまま一週間、二週間と長くなっていけば――。
「春陽くんの時間を取り戻す方法ってないのかな?」
吐き出された問いが儚い音の塊になって虚空を漂う。
隣にいる春陽くんへの想いばかりが先に立つ。
「ごめんなー。『共依存病』は患者数が少ない難病だからさ。正直、探しようがないんだ……」
「そうなんだね……」
少し沈んだ答えに、私は身を焼かれるような焦燥感に駆られる。
春陽くんの時間を取り戻す方法。考えても考えても、思考は堂々巡りだ。
一向に具体案は浮かんでこない。
秋斗くんの時である時、春陽くんはこの世界に存在していると言えるのだろうか。
その逆もまた然りで……。
すぐそこにいるはずなのに、もう、どうしようもなく遠い二人。
ずっと続くと思っていた何気ない日常が、『共依存病』の進行によって揺らいでいく。