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春陽くんの姿を教室で見かけなくなってから三日目の朝。
教室に入ると、否応なく春陽くんの不在を突きつけられた。
以前より静かな教室。彼の席の空白。
春陽くんがいたはずの空間に身を置くのは苦痛だった。
春陽くん、どうしたのかな……。
口に出すことはない、思いというものは誰にだってある。
春陽くんに会いたい思いばかりが増している。
それなのに春陽くんから届いたメールの内容は、今日も秋斗くんの方の身体で目覚めたので学校に来れないというものだった。
『共依存病』は二つの身体に同じ人格が宿る病気。一日置きに身体が入れ替わるはずなのに……。
まさか――。
その時、あり得ない想像が私の脳裏をよぎる。
いや、そんなことが……でも、実際に春陽くんの身に起こってしまっている以上、受け入れないわけにはいかない。
「もしかして……春陽くんの魂が、秋斗くんの身体に紐付いできているから、秋斗くんの方の身体でずっと目覚めているの……?」
この状況を説明するには……それしか考えられない。
しかし、それはある重大なことを意味する。
このままでは春陽くんがいなくなるかもしれない――。
私がたどり着いた結論。それは厳しい現実そのものだった。
『共依存病』はいずれ、魂がどちらかの身体に紐付き、どちらかが死んでしまう。
つまり、このままでは春陽くんは秋斗くんとして生きていくことになり、春陽くんの存在は消えてしまうことになる。
「ねえ、春陽くん、秋斗くん。私はどうしたらいいの?」
名前を呼んだら、堪えていた涙が一粒、頬を流れた。
「会いたい。会いたいよ……」
言葉にすれば、想いは形を持って湧き上がってくる。心が張り裂けそうになる。
春陽くん、秋斗くん。どちらも大切な存在だ。
……私はきっと、どちらか一人だけが生きていく未来を選べずにいる。
お願い。この願いを叶えてください。
窓の向こうに広がるのは、どこまでもどこまでも広がるかのような、綺麗な蒼穹。
その空に、私は強く強く願う。
大切で仕方ない二人が笑顔で生きられる世界を。
春陽くんと秋斗くん、二人を引き離さないでください。
どうかどうかどうか、この願いを聞き届けてください。
考え得る全ての分岐。望めば変わる。
春陽くんが久しぶりに学校に来たのは、その翌日のことだった。