「篠宮さん」

言葉にできない想いを抱き止めるように、秋斗くんは言った。

「お誕生日おめでとうございます」
「あっ……覚えていてくれたんだ……。ありがとう……」

胸に生まれた予感はきっと事実。
この想いは幸せの色をしている。

春陽くんと秋斗くん。
二人と一緒にいると、どこまでも自然体でいられるような気がした。

「春陽からは本を、僕からはこの曲をプレゼントします」
「もしかして、私の誕生日プレゼントのサプライズだったの?」
「はい」

ヴァイオリンをケースにしまうと、秋斗くんは暮れた空を眺める。
物悲しげな秋斗くんの姿が、『満天のコーラス』の主人公の最後のシーンと重なって見えた。

どうしてかな?
秋斗くんと……春陽くんと一緒にいると胸がぽかぽかと温かくなる。
この温かい気持ちってなんだろう。

まるで――感情が、想いが、固い霜の下から芽を出す春草のように沸き上がってくる感覚は……。

……あ、そうだ。『好き』って気持ちだ。

私は春陽くんに恋をしている。
春陽くんのことを知れば知るほど、惹かれていく。
話せば話すほど、もっと話したくなる。
人を好きになるのは、こういうことかもしれない。

「春陽くん、秋斗くん、あのね……」

私は頬を緩め、秋斗くんに笑みを向ける。

「私は春陽くんが大好きです。秋斗くんのことを大切に想っています。これからもきっと、それは変わりません」

答えなんて期待していなかった。
今は、私の想いに応えてくれなくてもいい。
だって、秋斗くんはキャラ作りを忘れてしまったかのように顔を赤くしていたから。
そんな秋斗くんの姿を見れただけで十分だ。

願わくは、どんな時でも春陽くんと秋斗くんの傍にいられますように――。

何にも替えられない、これ以上ない幸せを手に入れて。
どの種類の幸せとも違う無上の喜びを、私は噛みしめる。
だからこそ、この幸せの後にやってきた不幸は、私にはあまりにも大きすぎた。