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昔から、喧嘩ばかりしてきた。
目についたもの、耳に聞こえたもの、見逃せず聞き逃せず、もやもやとグレーな気持ちが芽生えるたびに、真悠にだけは遠慮も躊躇もなくぶつけていた。
家族じゃなきゃ、双子じゃなきゃ、端と端とで離れて生きていただろう。それにしたって、16年は短すぎやしないか。
絹糸のように細い黒髪は光を含んで煌めいていた。綺麗だと、そう思う。痩けた白い頬を撫でて、真悠と小さく呟くと、ぴくりと瞼が震える。
あ、起きる。
慌てて、顎に滴っていた涙を拭った。泣き顔なんて見られてたまるかと強がるけれど、まだおれの声かけにこたえてくれることが嬉しくて、ぽたりと一滴、シーツに染みていく。
双眸があっちへこっちへとさまよって、おれを見つけたようだ。涙を見て少しだけ眉を寄せていた。
「何時間寝てるんだ」
「……さんびょう、くらい?」
「黙れ。おまえもう、目かっぴらいとくことだけに集中しろ」
怒気を含めた口調をわざと絞り出すと、真悠は何か言いたげにくちびるを動かしたけれど、声には出さずに飲み込んでいた。
何度か瞬きをして、それから、またおれを見つめる。
「ね、まち。健康にいきてよ。からだの中に、悪いものなんてひとつも呼ばないで、クリーンに、いきて」
「空気清浄機かよ」
「そう、そうだね、そんな感じだ」
間髪入れずに突っ込むと、真悠は喉を震わせて笑った。軽く咳き込むから心配になって身を乗り出すけれど、むしろ幾分か発声が楽になったようだ。
まち、まち、と何度もおれの名前を呼ぶ。なんだよ、どうしたんだよ、と問い返すのに、繰り返すのは『まち』の二文字。焦れて、真悠の手を握ると呼び続けていた声が途絶えた。
「してほしいこと、ねえの」
「……ないよ」
「食べたいものとか、なんでも持ってきてやるけど」
「ないね」
「真悠、おまえさ、生きろよ」
「いきてるよ」
力強く握り返された手にほっとしたのも束の間、やたらと深く長い息をしたまま微動だにしなくなった真悠に、おい吸えよって慌てて言うと、小さく、短く、すうっと音が聞こえた。
ただの、呼吸さえ、きついのだろうか。体に負荷をかけながら、生きているのだろうか。それはきっと、とてもつらいことだろう。これまでだって、散々治療に耐えてきたのに。
楽にさせてやりたい。けれどまだ、離れるには惜しくて、泣き出しそうなほど、くやしくて。
「おれも一緒にいってやろうか」
「なに馬鹿なこといってんの?」
「真悠は寂しがりだから」
「寂しがりは自分のまちがいでしょ。わたしはひとりでも平気なの」
強がりだろうか、本心だろうか。気休めか、気遣いか、空振りそうな優しさを繋ぎ止めて命も留まるというのなら、受け入れたであろうその言葉に、反抗をしたくて、でも声は、音は、奥歯ですり潰した。
何度も、何度も、話をしたんだ。そのときがきたら、弱っていく真悠を見ていたら、きっと冷静な頭を持てないから。まだ真悠が自分の力と、ほんの少しのおれの手助けで上体を起こすことができたころ、まだ移り変わる表情を見ていられたときに、話をした。