からだが悪いものを蝕まれていると知った日、もうそれを追い払う手立てはないと突きつけられたとき、手がつけられないほど取り乱して三日三晩泣き通したのは真知だった。

そんなに泣かなくても、と軽はずみに口にしたら、容赦のない平手が飛んできた。食いしばる暇なんてなかった。頬は真っ赤に腫れたし、噛んだ舌が痛くて数日ろくに食事ができなかった。

そういえば、そのときのことをまだ謝ってもらっていない。震える手でわたしを引っぱたいて、あたらしい涙をこぼしながら、聞くに絶えない罵詈雑言を撒き散らし、床に膝をつく姿があんまり、かわいそうで。

自分の余命がとか、死期がとか、そういう悲しみは後からやってきたもので、ただそのときは、真知をこんな風にしたのは誰だと自問して、自分だと気付いて、やるせなかった。

数時間後には、いやそれでもいきなりビンタはありえないと思い直したけれど、文句は喉の奥に押し込めたままだ。


いつの間にか解かれた手。力の入らない、感覚の曖昧な指先で、真知の手の甲を撫でた。

たぶん、しばらく、そうしていたと思う。


「真悠、まゆ、目開けて」
「……うん」
「瞬き、長いんだよおまえ」


つめたい雫がいくつも、持ち上げられて包まれた手に落ちる。湧き出ても、湧き出ても止まらないね。拭ってあげたくても、届かなかった。


「このまえの、覚えてるんだろうな」
「おぼえ、てるけど、むりだよ」
「うるせえ、戻ってこいよ」


口は悪いし横暴で一方的で、でもそんな真知の願いを、叶えられるものなら叶えてあげたい。

できない、不可能だ、無理だと突き返すたびに、胸が痛む。


それにしたって、途方もない願いだ。


「一緒にうまれてきたのに、一緒にいけないなんておかしいから、あの世を一周して戻ってこいよ」


おねがい、と縋るように言われたら、乾いた眦をぬるい水が伝い落ちる。


真知にとって、わたしはいい姉ではなかっただろう。喧嘩ばかりで、売り言葉に買い言葉、口が悪いのはわたしも同じだ。

思ってもいないことや、取り返しのつかないことを口にして、ひどく傷付けたこともある。

真知なんていらないと、こんなやつ消えてしまえと、心の底から思ったことだって、数え切れないほどあった。

泣かれたところで、喚かれたところで、ああまたなんか言ってるよってどこかで呆れていた。

こんなに泣いていたって、いつかわたしの思い出なんて振り切って、いきていくんだって。

そうしてくれと願うのに、そうならないでほしいと祈りたくなるたびに、手のひらに爪を食い込ませていた。