翌日。神楽の道具の修復のため、材料となるナギの木の枝を収集することになった。
天音は、巫神社で邪馬斗と待ち合わせる。
「おっはー」
鳥居の向こうから、邪馬斗が手を振りながら歩いてきた。
「おっそーい」
「ごめんごめん。昨日じいちゃんが散らかしてた書物を片付けてたら、寝るの遅くなってさー。すっかり寝坊してしまった」
「あー、たしかに、かなり散らかしてたもんね……。お疲れ様」
「ほんとにな。ボロい書物ばかりだから、破れないように慎重に片付けてたからな。だいぶ時間かかってしまった。ボロボロになる前に、保存方法も考えていかなきゃなんねーな……」
「後世に残すためには必要なことだもんね。その時は私も手伝うよ!」
「お前、漢字間違えやすいし、字汚いからなー」
すると、天音はぷくっと頬をふくらませる。
「酷い! ちゃんと読める字書けるんだから別にいいでしょ!」
「まぁ、かろうじて読めるけどな」
「ほんと素直じゃないねー」
「もういいだろ、行こうぜ」
邪馬斗は裏山へと歩き出した。
「あ、待ってー」
天音も邪馬斗の後を追って、ナギの木がある裏山へと入って行った。
「ねー、邪馬斗。ナギの木の所に行くのって、トキ子おばあちゃんを魂送りして以来だよね」
山道を歩きながら、天音が言った。
「そうだなー。トキ子おばあちゃん、旦那さんと無事に会えたかな?」
「きっと会えたよ。私は信じてるよ」
「そうだな」
話をしながら進んでいくと、山頂のナギの木が見えてくる。
「はぁー、もうすぐだー!」
ナギの木が見えてくる辺りからは、注連縄が張られて行く手を塞いでいる。
頂上にぽつんと生えたナギの木の周りには、柔らかそうな草地が広がっていた。
「枝を取りに行くには、この縄の向こうに行かなきゃいけないよね。私、縄の向こう側に行くの初めて」
「そりゃそうだろ。小さい頃から、縄の向こう側に行くのは神様に対して失礼だって言われてきたんだから」
「そうだったねー。縄を潜ろうとしたらおばあちゃんに怒られたなー」
「お前、そんなことしてたのか……」
やんちゃな幼少期の天音の行為に、邪馬斗は呆れた。
「さ、ちゃっちゃと枝を頂いて帰ろうよ。御神木様、お邪魔しま~す」
そう言って、天音は縄をくぐろうとした。
だが縄の向こうに行くことができず、天音は縄の手前でしゃがんだままだ。
不思議に思い、邪馬斗が声を掛けた。
「何やってんだよ」
「入れないのよ」
「は?」
「だから、入れないんだってば!」
「そんなわけ……」
邪馬斗も縄の向こう側へ行こうとするが、そこから先に進むことができない。
「なんだこれ? まるで見えない壁があるみたいだ。これ以上行けない……」
「でしょ? どうしよう。ナギの木の枝がなきゃ、道具を直せないよね」
「困ったな~。まるで結界だよ」
「もしかして、その結界を解かないといけないんじゃないの?」
「そうかもなー。じいちゃん、そういうの一言も言ってなかったのに……。取り敢えず、一回家に戻って、結界を解く方法を調べてみよう」
「その方が良いかもね。あーもー、しゃがんでいたから腰いた~い」
天音はゆっくりと腰を伸ばしながら言った。
「はぁ、やっとここまで来たのにー」
「良かったな、痩せるぞ。いっぱい往復しろ」
「ムカっ」
天音が邪馬斗の嫌味にキレていると、遠くから声が聞こえた。
「ん? 誰かなんか言った?」
「なんか聞こえた?」
「うん。誰だろう?」
天音と邪馬斗が耳をすましていると、その声は段々と近づいてきた。
「近くまで聞こえるようになった!」
天音はそう言って辺りを見渡した。
すると、ナギの木の向こうから人が歩いてくるのが見えた。
「お~い」
「えっ!? 猿田先生だ!」
天音は目を丸くして言った。
「本当だ。猿田先生だ。……ん? 猿田先生? 何で?」
邪馬斗も猿田先生に気づき、天音を見て言った。
「なんで先生がこんな所に?」
「しかも何でスーツ姿なのよ?」
「同感……」
天音と邪馬斗は、顔を見合わせながら言った。
「やーやー、天音さん、邪馬斗君。こーんにーちはー」
いつもどおりの気の抜けた話し方で、猿田先生は天音と邪馬斗に手を振った。
「先生! 何でこんなところにいるんですか!?」
天音は猿田先生に駆け寄った。
「天気良いし、散歩してたんだよー。いや~、三十後半にもなると衰えを感じるな~。途中で足痛くなってさー。でも、杖代わりにぴったりの枝があって良かったよ」
猿田先生は、両手に木の枝を一本ずつ持っていた。
「そうだったんですか。てか、先生、そんな歳だったんですね……。年の差……そういうのもいいわよね。アリよ、アリ……」
今まで猿田先生の歳を知らなかった天音は、意外に高い年齢に驚きながらも、勝手な妄想に浸っていた。
「てか、先生。どこから来たんですか? 俺達、ナギの木が見える注連縄の前にいたんですけど……」
「僕、山の反対側から来たんだ~。あ、お二人さんにお願いがあるんだけど……」
「何でも言って下さい!」
猿田先生のイケメンぶりに惹かれている天音は、勢い良く猿田先生に言った。
「お前、実は先生のことが好きなんだろ?」
バシッ!
「イテッ!」
邪馬斗が余計なことを言うと、天音は邪馬斗のすねを思いっきり蹴った。
「先生、気にしないで下さいね。頼み事ってなんですか?」
痛みに悶絶している邪馬斗をよそに、天音はニコニコしながら猿田先生に聞いた。
「実はさー。この杖を使っても歩くの大変でさー。肩貸してくれないかな?」
「お安い御用です! この下の神社にベンチがあるのでそこを目指して行きましょう! もう少しで神社に着きますし。はい、邪馬斗! あんたも手伝って!」
「……はいはい」
まだ、ズキズキとしたすねの痛みに耐えながら、邪馬斗は渋々猿田先生に肩を貸した。
三人は神社を目指して下山する。
神社に到着すると、猿田先生はベンチに腰掛けた。
「いや~助かったよー! ありがとうね!」
「いえいえ! 無事に下山できて良かったです!」
「主に肩を貸してたの俺だし。お前、先生が杖代わりにしていた木の枝を持ってただけじゃん!」
満足そうに言う天音に邪馬斗はツッコむ。
その時、邪馬斗は天音が持っていた木の棒を見てキョトンとした顔になった。
「……天音。その木、もしかしてナギの木じゃないか?」
「え?」
邪馬斗に言われて、天音は自分が持っていた木の枝をよく見た。
「ほんとだ! 先生! この枝どこで手に入れたんですか!?」
天音は驚いて猿田先生に聞く。
「ん? 山頂のナギの木の近くに落ちてたよー」
「え?」
思わぬ回答に天音と邪馬斗は呆然とした。
天音は、巫神社で邪馬斗と待ち合わせる。
「おっはー」
鳥居の向こうから、邪馬斗が手を振りながら歩いてきた。
「おっそーい」
「ごめんごめん。昨日じいちゃんが散らかしてた書物を片付けてたら、寝るの遅くなってさー。すっかり寝坊してしまった」
「あー、たしかに、かなり散らかしてたもんね……。お疲れ様」
「ほんとにな。ボロい書物ばかりだから、破れないように慎重に片付けてたからな。だいぶ時間かかってしまった。ボロボロになる前に、保存方法も考えていかなきゃなんねーな……」
「後世に残すためには必要なことだもんね。その時は私も手伝うよ!」
「お前、漢字間違えやすいし、字汚いからなー」
すると、天音はぷくっと頬をふくらませる。
「酷い! ちゃんと読める字書けるんだから別にいいでしょ!」
「まぁ、かろうじて読めるけどな」
「ほんと素直じゃないねー」
「もういいだろ、行こうぜ」
邪馬斗は裏山へと歩き出した。
「あ、待ってー」
天音も邪馬斗の後を追って、ナギの木がある裏山へと入って行った。
「ねー、邪馬斗。ナギの木の所に行くのって、トキ子おばあちゃんを魂送りして以来だよね」
山道を歩きながら、天音が言った。
「そうだなー。トキ子おばあちゃん、旦那さんと無事に会えたかな?」
「きっと会えたよ。私は信じてるよ」
「そうだな」
話をしながら進んでいくと、山頂のナギの木が見えてくる。
「はぁー、もうすぐだー!」
ナギの木が見えてくる辺りからは、注連縄が張られて行く手を塞いでいる。
頂上にぽつんと生えたナギの木の周りには、柔らかそうな草地が広がっていた。
「枝を取りに行くには、この縄の向こうに行かなきゃいけないよね。私、縄の向こう側に行くの初めて」
「そりゃそうだろ。小さい頃から、縄の向こう側に行くのは神様に対して失礼だって言われてきたんだから」
「そうだったねー。縄を潜ろうとしたらおばあちゃんに怒られたなー」
「お前、そんなことしてたのか……」
やんちゃな幼少期の天音の行為に、邪馬斗は呆れた。
「さ、ちゃっちゃと枝を頂いて帰ろうよ。御神木様、お邪魔しま~す」
そう言って、天音は縄をくぐろうとした。
だが縄の向こうに行くことができず、天音は縄の手前でしゃがんだままだ。
不思議に思い、邪馬斗が声を掛けた。
「何やってんだよ」
「入れないのよ」
「は?」
「だから、入れないんだってば!」
「そんなわけ……」
邪馬斗も縄の向こう側へ行こうとするが、そこから先に進むことができない。
「なんだこれ? まるで見えない壁があるみたいだ。これ以上行けない……」
「でしょ? どうしよう。ナギの木の枝がなきゃ、道具を直せないよね」
「困ったな~。まるで結界だよ」
「もしかして、その結界を解かないといけないんじゃないの?」
「そうかもなー。じいちゃん、そういうの一言も言ってなかったのに……。取り敢えず、一回家に戻って、結界を解く方法を調べてみよう」
「その方が良いかもね。あーもー、しゃがんでいたから腰いた~い」
天音はゆっくりと腰を伸ばしながら言った。
「はぁ、やっとここまで来たのにー」
「良かったな、痩せるぞ。いっぱい往復しろ」
「ムカっ」
天音が邪馬斗の嫌味にキレていると、遠くから声が聞こえた。
「ん? 誰かなんか言った?」
「なんか聞こえた?」
「うん。誰だろう?」
天音と邪馬斗が耳をすましていると、その声は段々と近づいてきた。
「近くまで聞こえるようになった!」
天音はそう言って辺りを見渡した。
すると、ナギの木の向こうから人が歩いてくるのが見えた。
「お~い」
「えっ!? 猿田先生だ!」
天音は目を丸くして言った。
「本当だ。猿田先生だ。……ん? 猿田先生? 何で?」
邪馬斗も猿田先生に気づき、天音を見て言った。
「なんで先生がこんな所に?」
「しかも何でスーツ姿なのよ?」
「同感……」
天音と邪馬斗は、顔を見合わせながら言った。
「やーやー、天音さん、邪馬斗君。こーんにーちはー」
いつもどおりの気の抜けた話し方で、猿田先生は天音と邪馬斗に手を振った。
「先生! 何でこんなところにいるんですか!?」
天音は猿田先生に駆け寄った。
「天気良いし、散歩してたんだよー。いや~、三十後半にもなると衰えを感じるな~。途中で足痛くなってさー。でも、杖代わりにぴったりの枝があって良かったよ」
猿田先生は、両手に木の枝を一本ずつ持っていた。
「そうだったんですか。てか、先生、そんな歳だったんですね……。年の差……そういうのもいいわよね。アリよ、アリ……」
今まで猿田先生の歳を知らなかった天音は、意外に高い年齢に驚きながらも、勝手な妄想に浸っていた。
「てか、先生。どこから来たんですか? 俺達、ナギの木が見える注連縄の前にいたんですけど……」
「僕、山の反対側から来たんだ~。あ、お二人さんにお願いがあるんだけど……」
「何でも言って下さい!」
猿田先生のイケメンぶりに惹かれている天音は、勢い良く猿田先生に言った。
「お前、実は先生のことが好きなんだろ?」
バシッ!
「イテッ!」
邪馬斗が余計なことを言うと、天音は邪馬斗のすねを思いっきり蹴った。
「先生、気にしないで下さいね。頼み事ってなんですか?」
痛みに悶絶している邪馬斗をよそに、天音はニコニコしながら猿田先生に聞いた。
「実はさー。この杖を使っても歩くの大変でさー。肩貸してくれないかな?」
「お安い御用です! この下の神社にベンチがあるのでそこを目指して行きましょう! もう少しで神社に着きますし。はい、邪馬斗! あんたも手伝って!」
「……はいはい」
まだ、ズキズキとしたすねの痛みに耐えながら、邪馬斗は渋々猿田先生に肩を貸した。
三人は神社を目指して下山する。
神社に到着すると、猿田先生はベンチに腰掛けた。
「いや~助かったよー! ありがとうね!」
「いえいえ! 無事に下山できて良かったです!」
「主に肩を貸してたの俺だし。お前、先生が杖代わりにしていた木の枝を持ってただけじゃん!」
満足そうに言う天音に邪馬斗はツッコむ。
その時、邪馬斗は天音が持っていた木の棒を見てキョトンとした顔になった。
「……天音。その木、もしかしてナギの木じゃないか?」
「え?」
邪馬斗に言われて、天音は自分が持っていた木の枝をよく見た。
「ほんとだ! 先生! この枝どこで手に入れたんですか!?」
天音は驚いて猿田先生に聞く。
「ん? 山頂のナギの木の近くに落ちてたよー」
「え?」
思わぬ回答に天音と邪馬斗は呆然とした。