「のれっていってんの」

少し怒ったように言い、促すように伶龍が手を揺らす。
理解はしたが、彼がそんなことをしてくれるなんて信じられない。

「のらねーなら抱えていくがそれでもいいのか」

〝抱える〟が荷物のように肩の上なのか、それともお姫様抱っこなのかはわからないが、どっちにしても避けたい。

「えっ、あっ、それは遠慮します……!」

少しだけ地面を這い、おそるおそる彼の背中にのった。

「よし」

私をおぶり、歩き出した伶龍の頬は赤い。
それを見ていたら私まで恥ずかしくなってきた。

「あの、さ。
伶龍。
あのとき、私を助けてくれてありがとう」

「巫女を守るのは刀の使命だろ」

「そう、だね」

それっきり、伶龍はなにも言わない。
私もなにを話していいのかわからない。

「……もしかして、さ。
一度だけ、病院に私の様子、見に来てくれた?」

あの夜、病室に忍び込んできたのは絶対に伶龍だと思う。
でも、なにも話さずに去っていった彼が、なにを考えていたのかわからない。

「……翠が無事なら、それでいい」

「え?」

ぽつりと呟かれた言葉はよく聞き取れなくて、聞き返してしまう。