祖母は適当になんて言うが、私には理想の刀があるのだ。

――母のパートナーだった刀のように美しい刀を選びたい。

それが、私の願いだった。

亡くなった母の刀は、それは美しい刀だった。
絹のように細く艶やかで、漆黒の闇のような長い髪。
すらりと高い背。
白い肌に切れ長な目をしていた彼は、同じ人間か疑うほど美しかった。
いや、人ではなく刀なのはわかっている。
それでも歴代で最高に美しい刀とまでいわれていた。
さらに物腰柔らかく、彼が微笑むだけで老若男女、頬を赤らめる。
それくらい、美しい刀だった。

「髪だけなら私も、似てるんだけどな」

無造作に結んで背中に垂らしていた髪を前に持ってくる。
背中の中程を過ぎるほど長い髪は、彼を真似てだ。
父親のいない私は彼を父のように思っていた。
祖母などは邪魔だから切ってしまえなどと乱暴なことを言うが、娘が父を偲んで髪を伸ばしてなにが悪い?
とはいえ彼は刀であって本当の父ではないが。

私は実の父親の顔を知らない。
おかげで小さい頃は本気で、刀の彼を父親だと思っていたくらいだ。

『私は刀ですから、父親などもったいない言葉です』