「翠様と伶龍様とのあいだに、私など入る隙などございませんので」

などとなぜか、達観していた。



――うおおおぉぉぉぉーん。

遠く、穢れの唸り声が響いてくる。

「きた、きたぞ!」

今にも飛び出していきそうな伶龍の、襟首を捕まえた。

「私たちは控え。
ここは伶華の戦場だってば。
第一、短刀の伶龍じゃ核を切るのが大変でしょ」

「うっ」

声を詰まらせ、伶龍がおとなしくなる。

「だってよ……」

「じゃあ伶華、頼んだよ」

「いってきます!」

項垂れた伶龍とは反対に、元気よく伶華が刀とともに飛び出していく。

「私たちはこれから、娘の成長を見守るのが仕事だよ。
それでさ」

一度言葉を切り、持ってきていたマフラーを彼に巻いた。
あのとき、クリスマスプレゼントに用意していたものだ。

「任せられるようになったら、約束どおり海外旅行に行こう?」

「そうだな」

機嫌がよくなったのか、伶龍がにやっと笑う。

「雪永!
雪永は一緒なのか?」

「あー」

これは、どう答えるのが正解なのだろう?
雪永ひとり置いていくとか言えないし……。