私が刀の名を告げると、場内がどよめいた。
それもそのはず、一振りの刀が供にするのはただひとりの巫女だけ。
二人目の巫女に選ばれるなどありえない。
しかもあの、伶龍なのだ。

冷静を装いつつ、祝詞を上げて儀式を続ける。
なんで伶華が、伶龍の鍵を選べたんだろう。
永久欠番も同じだからと、鍵は私が譲り受けた。
伶華に渡した箱の中に、伶龍の鍵はなかったはずだ。
なのにどうして、伶華はこの鍵を選んだ?

「神祇伶華。
そなたに神の使者である刀、伶龍を授ける」

「確かにちょうだいいたしました」

私が差し出す刀を、伶華が受け取る。

「二〇二三番伶龍、拝領いたしました」

伶華が挨拶をしたが、場内はいまだに微妙な空気だ。

「では、目覚めの儀を」

「はい」

伶華が短刀を握り、鞘から引き出していく。
どうせ伶龍は顕現しない、これは失敗だ。
選び直しになるから心配はない。
そう、高を括っていたが。

「ふぁーあ」

現れた男が、大あくびをする。
ツンツンの短髪、小柄な身体、三白眼。
忘れようとしても忘れられなかった、彼の姿だ。

「あー、よく寝た」