母が死んだとき、まだ刀を授かっておらず、加護を受けていない子供の私が穢れの汚染液を頭からかぶり、無事だったのが。
大人でも命の危険があるのだ、子供ならひとたまりもない。
しかし私は、寝込みもしなかった。
あれは、生まれながらに神の加護を得ていたからに違いない。

「じゃあ……」

私の父親は、蒼龍だ。
祖父……母の父親は威宗。
祖母の父親は春光。
きっと代々、神祇家の女たちは刀と契ってきた。
しかし神様とはいえ人外、そんな存在と身体を重ね子をなすなど、倫理的に認められようはずがない。
だから公然の秘密とし、誰もが口を噤んだ。

「そうなんだ……」

そっと下腹部を撫でる。
愛しい、伶龍と私の子供。
この子もまた、素敵な刀を選ぶといいな……。



それから。
あの穢れは〝特異型〟と分類された。
核がふたつあるなどありえない。
いや、祖母は文献で読んだことがあると言っていた。
それをもとに、研究が進んでいる。

――うおおぉぉぉぉぉーん。

遠く、穢れの唸り声が聞こえてくる。
腰の短刀を確認し、弓を掴んで立ち上がった。

「……来た」

「そうですね」