「……バカ。
伶龍の、バカ。
戻って、来てよ……」

刀を抱き締めるが、もうなにも言わない。
不思議と涙は、出なかった。



祖母の意識も戻り、安心したのも束の間。
新たな問題が持ち上がった。

「……陽性」

検査薬の結果を見て、どうしていいのかわからなくて戸惑った。
私は――妊娠、していた。

誰に相談していいかわからず、悩んだ末に曾祖母に話す。

「大ばあちゃん。
……子供が、できた。
どうしたら、いい?」

訪ねてきた私を見てなにかを悟ったのか、春光は部屋を出ていった。

「そうさね。
翠ちゃんは、どうしたい?」

「……産みたい」

これは彼が、私に残してくれたものだ。
倫理的に責められようと、堕ろすなんて選択肢はない。

「わかった。
光恵にも話しておくよ」

「ありがとう、大ばあちゃん」

誰の子だとか聞くことなく、あっさりと曾祖母が受け入れてくれて悟った。
巫女とは、神の花嫁。
神である刀と契り、その力を得る。
だから伶龍と契った私は、穢れの核が見えるようになった。
授かった子は神の加護を受ける。

「だからか……」

ずっと不思議だったのだ。