「騒ぐんじゃないよ。
ちーっと怪我をしただけだ」

少しのはずがない、祖母の呼吸は荒く、浅い。
かなりの深手のはずだ。

「たぶんありゃ、核が複数あるタイプだね。
昔、文献で読んだことがある」

「うん」

話しているあいだにも、祖母の着物の赤い範囲が広がっていく。
怖い、祖母まで亡くしたらどうしよう。
怖くて涙が浮いてくる。
けれどそれを、ぐっと堪えた。
これ以上、祖母を心配させるわけにはいかない。

「すぐに大ばあちゃんが到着する。
アンタはさっきと同じで、大ばあちゃんを援護しな。
きっと母さんなら、なんとか……して……くれ……る……」

祖母の声が次第に途切れ途切れになり、そのうち完全に途絶えた。

「ばあちゃん?
ばあちゃん!」

呼びかけるがもう祖母の瞼は開かない。

「……許さない」

「翠?」

心配そうに伶龍が、私の顔をのぞき込む。

「威宗。
ばあちゃんを後方へ運んで」

「はっ」

祖母を抱え、ビルの合間を跳躍してあっという間に威宗が去っていく。
すぐにその姿は見えなくなった。

「大丈夫だ、あのばばぁは殺しても死なねぇ」

伶龍が呆れたような笑みを浮かべる。

「……そうだね」