それが、いけなかったんだと思う。

――おおぉぉぉーん!

振り上がった穢れの足が、こちらに迫ってくる。
とっさのことで身体が動かない。

「翠!」

床を蹴った伶龍が、私を抱いてそのまま転がる。
その少し上を、足が凄い勢いで通過していった。
その軌道を追った先には、祖母がいる。

「ばあちゃん、避けて……!」

いつもなら機敏な祖母も、このときばかりは反応が遅れた。

「光恵様!」

威宗の悲痛な叫び声が聞こえると同時に、穢れの足が当たり、祖母が吹っ飛んだ。

「ばあちゃん!」

慌てて起き上がり、伶龍の手を借りて祖母のいるビルへと移る。

「ばあちゃん!
ばあちゃん!」

呼びかけるが祖母からの返事はない。
祖母の服は裂け、白い着物が赤く染まっていた。

「光恵様!」

すぐに威宗も、駆け寄ってくる。

「ばあちゃん、しっかりして!」

息はしている、死んではない。
すぐに手当てすれば助かるはず。

「……ったく、うるさいね」

少しして祖母が、開けづらそうに瞼を開いた。

「いててて……。
威宗」

「はっ」

威宗の手を借り、祖母が身体を起こす。