「いいんだ、別に怖がったって。
母親を殺した相手だ、怖いに決まってる」

「……ありがとう、伶龍」

甘えるようにこつんと、彼に肩を預ける。

「お、俺は別に」

照れくさそうに伶龍は、頬を指先でぽりぽりと掻いた。

「……母を殺したのは私なの」

「はあっ?
穢れだろ?」

大きく伶龍が目を見張る。
それにううんと首を振った。

「私がお母さんを助けるんだって、こっそり現場に着いていったの。
それで初めて実際に穢れを目の当たりにして、動けなくなって。
お母さんはそんな私を庇って死んだ」

伶龍は黙ったままなにも言わない。

「私、穢れの怖さなんてなにもわかってなかった。
私がお母さんを殺したも同然だよ。
なのにばあちゃんも大ばあちゃんも、私が無事でよかったって責めないで。
ずっと、ずっと苦しかった」

お前のせいで母親は死んだのだと、責められたほうがいっそ気が楽だった。
でもみんな、私が無事でよかったとそればかりで、誰も私を断罪しなかった。
おかげで私は私の罪を償えず、それはしこりとなって私を責め続けている。

「……つらかったな」

そっと伶龍が私を抱き締める。

「翠はずっと、誰かに罰してほしかったのか」