「ねえ、お姉様。このままずっと、春が続けばよろしいのに」

 そう言ってほほえんだあなた。

「何を愚かなことを。季節というものは、移ろうからこそ美しいのですよ」

 そんなことを訳知り顔で言っていたわたくしは何と愚かだったことでしょう。まさか、あなたと共に迎える春が、それで最後だったなんて。
 きっとあなたは知っていたのでしょうね。共に迎えることができる春は、これで最後なのだと。

 春も夏も秋も冬も。何度でも同じ季節を共に迎えられると、何の疑いもなく信じていました。
 いつでもどこでも、わたくしたちが望みさえすれば共に笑いあえるのだと。

 だから、あの夏の朝にあなたが倒れた時、わたくしは何が起きたか理解できませんでした。わかっていたら、あなたの傍を決して離れはしなかったものを。
 愚かなわたくしは自分のことだけで頭がいっぱいで、夜会に出かけたりお友達のお屋敷にお泊まりしたりと、毎日忙しく遊び歩いておりました。

 あなたはただ風邪をこじらせただけ。すぐに元気になるはずだ。
 愚かにもそう思い込んだまま。

 秋になっても起き上がれないあなたのやつれた姿を見て、わたくしは初めて過ちに気づきました。ただの風邪なら、こんなにも長く臥せっているはずはないと。
 でも、その時にはもう遅かったのです。あなたはもう、一日の大半を眠って過ごしていました。ごくたまに目を開けることがやっとで、とても話ができる状態ではなかったのです。
 わたくしはただその寝顔を見守りながら、神に祈ることしかできませんでした。

 そして冬、あなたが長い苦しみから開放された時、わたくしはただ泣くことしかできませんでした。
 その時、優しい声が聞こえたのです。

「泣かないで。今はお別れだけど、また必ず会いに来ます」

 わたくしは己の弱い心が産んだ幻聴だと、自らをそっと責めました。
 あなたの苦しみを知らず、能天気にいつまでも変わらぬ日々が続くものだと思い込んでいた愚かな私自身を。

 また春を迎えたある日、わたくしはいつもあなたと過ごしていた庭を散策しておりました。
 木陰(こかげ)に揺れるスズランや、甘い香りを放つスイカズラの茂み。咲き誇る花々に囲まれた小さなブランコ。
 そんな景色にあなたの面影を探し求めていた時です。

「お姉さま、また春ですわ」

 耳元に届いた優しい声に、わたくしは驚いて振り向きました。そこには柔らかな木漏れ日(こもれび)の中を舞う一匹の白い蝶。

「お約束通り、また会いに参りました」

「ありがとう。また春に会いましょう」

 だから今でもわたくしは春が大好きなのです。