僕があいらに告白し振られてから五日間。つまりは、もうすぐあいらが余命宣告を受けたときからが一ヶ月が経とうとしている。
あれから僕は、一度も病室に行けていない。振られた日、自分でも驚くくらい、家に帰って泣いていた。毎日思い出しては泣いての繰り返し。僕は、自分がこんなにも弱いだなんて思いもしなかった。
あいらの病院へ向かう途中、またあの日を思い出し涙が目に溜まりそうになったとき、一つのコールが鳴り響いた。
「……はい、もしもし」
『もしもし、奏汰くん!?』
電話相手を確認せず会話すると、あいらのお母さんからだった。
――もしかして、だけれど。あいらに何か悪い変化があったのではないだろうか。
『あいら、ね……。もう数日、ってお医者様に言われたの。だから奏汰くんさえ良ければ、お見舞いに来てくれないかな?』
そこまで言われて、僕は目眩がした。視界が白く、滲んできている。周りに誰か人が来ているけれど、何を話しているのか全く聞こえない。
だんだん意識が遠のいていく。視界がどんどん真っ白になる。
「気がつきましたか?」
目が覚めると、僕は病院のベッドにいた。軽く医師から説明を受けると、僕は熱中症で倒れたのだそう。たまたま近くに居合わせた人に救急車を呼んでもらい、助かったと。
その人がいなかったら僕はどうなっていたかと思うと鳥肌が止まらない。
「とにかく、明日までは入院しようか、一応」
――そう言われてハッと気づいた。ここは、あいらが入院している病院だ。あいらは、あいらは無事なのだろうか……?
体が勝手に、病室を飛び出していた。あいらの病室に、行かないと。
振られたことへの億劫はまだあるけれど、それよりも。あいらのことが心配で心配で、耐えられなかった。
「あいら!」
あいらの病室へ足を踏み入れると、あいらはベッドに座っていた。
「……え、奏汰くん」
驚いていた。僕が病衣を着ながらあいらの前へ現れたのだから、そりゃあ驚くだろう。
けれど、僕も驚いた。――あいらが、何粒もの涙を流していたから。
「ど……どうしたの? あ、さっきお母さんが来てね、奏汰くんに無理言っちゃったから謝っといてって。ていうか、久しぶりだねっ」
あいらは泣き腫らした目を強く擦り、作り笑いを見せた。
――いつもの、あいらじゃない。
「……あいら、僕の前では弱音吐いてよ。大好きな幼馴染、なんでしょ? 強気でいなくていいから、あいらの本音を聞かせて」
大好きな幼馴染でも、いい。それでもいいから。
あいらの本当の気持ちを、聞かせてほしい。
その一心だった。
「……いいの? 奏汰くん」
僕は「もちろん」と答えて、首を縦に振った。
「……私、ね。本当は怖かったんだ。余命宣告されてから、ずっと。死って常に隣り合わせだから。ああ一ヶ月しか生きれないんだって、絶望した」
僕はただただ何も言えず、黙ってあいらの気持ちを聞いていた。
「でも私が悲しんでいたら、周りの人みんな悲しんじゃうから、笑顔でいた。前と同じ“雪松あいら”を演じてた」
――あいらは頑固で意地っ張りで、わがままだから。みんなに悲しんでいてほしくない、それしか考えられなかったのだろう。
「私、死にたくないよ。もっともっと好きなことして生きていたい、夢も叶えたいし、外国も行きたいし、お酒も飲んでみたいし、車も運転してみたい。全部、全部これからなのに……っ」
僕があいらの頭を撫でようとする前に、あいらは泣きながら、僕にしがみついてきた。
「奏汰くん、には特に、悲しませたくなかった。す――」
何かを言いかけたが、途中で「大好きな幼馴染だから」と言い換えた。
僕だけに見せた、あいらの本音を聞けて良かった。気がおかしくなりそうなほど、愛している人の本当の気持ちを、聞けて良かった。
「――僕はあいらが消えても、ずっと大好きだから。あいらは、一人じゃない。だから大丈夫だ」
「……ありがとっ、奏汰くん。ずっと、ずっと愛してくれて、ありがとう」
何か言いたげな表情をしていたが、結局、あいらはその言葉を口にすることが無く、この世を去ってしまった。
あれから僕は、一度も病室に行けていない。振られた日、自分でも驚くくらい、家に帰って泣いていた。毎日思い出しては泣いての繰り返し。僕は、自分がこんなにも弱いだなんて思いもしなかった。
あいらの病院へ向かう途中、またあの日を思い出し涙が目に溜まりそうになったとき、一つのコールが鳴り響いた。
「……はい、もしもし」
『もしもし、奏汰くん!?』
電話相手を確認せず会話すると、あいらのお母さんからだった。
――もしかして、だけれど。あいらに何か悪い変化があったのではないだろうか。
『あいら、ね……。もう数日、ってお医者様に言われたの。だから奏汰くんさえ良ければ、お見舞いに来てくれないかな?』
そこまで言われて、僕は目眩がした。視界が白く、滲んできている。周りに誰か人が来ているけれど、何を話しているのか全く聞こえない。
だんだん意識が遠のいていく。視界がどんどん真っ白になる。
「気がつきましたか?」
目が覚めると、僕は病院のベッドにいた。軽く医師から説明を受けると、僕は熱中症で倒れたのだそう。たまたま近くに居合わせた人に救急車を呼んでもらい、助かったと。
その人がいなかったら僕はどうなっていたかと思うと鳥肌が止まらない。
「とにかく、明日までは入院しようか、一応」
――そう言われてハッと気づいた。ここは、あいらが入院している病院だ。あいらは、あいらは無事なのだろうか……?
体が勝手に、病室を飛び出していた。あいらの病室に、行かないと。
振られたことへの億劫はまだあるけれど、それよりも。あいらのことが心配で心配で、耐えられなかった。
「あいら!」
あいらの病室へ足を踏み入れると、あいらはベッドに座っていた。
「……え、奏汰くん」
驚いていた。僕が病衣を着ながらあいらの前へ現れたのだから、そりゃあ驚くだろう。
けれど、僕も驚いた。――あいらが、何粒もの涙を流していたから。
「ど……どうしたの? あ、さっきお母さんが来てね、奏汰くんに無理言っちゃったから謝っといてって。ていうか、久しぶりだねっ」
あいらは泣き腫らした目を強く擦り、作り笑いを見せた。
――いつもの、あいらじゃない。
「……あいら、僕の前では弱音吐いてよ。大好きな幼馴染、なんでしょ? 強気でいなくていいから、あいらの本音を聞かせて」
大好きな幼馴染でも、いい。それでもいいから。
あいらの本当の気持ちを、聞かせてほしい。
その一心だった。
「……いいの? 奏汰くん」
僕は「もちろん」と答えて、首を縦に振った。
「……私、ね。本当は怖かったんだ。余命宣告されてから、ずっと。死って常に隣り合わせだから。ああ一ヶ月しか生きれないんだって、絶望した」
僕はただただ何も言えず、黙ってあいらの気持ちを聞いていた。
「でも私が悲しんでいたら、周りの人みんな悲しんじゃうから、笑顔でいた。前と同じ“雪松あいら”を演じてた」
――あいらは頑固で意地っ張りで、わがままだから。みんなに悲しんでいてほしくない、それしか考えられなかったのだろう。
「私、死にたくないよ。もっともっと好きなことして生きていたい、夢も叶えたいし、外国も行きたいし、お酒も飲んでみたいし、車も運転してみたい。全部、全部これからなのに……っ」
僕があいらの頭を撫でようとする前に、あいらは泣きながら、僕にしがみついてきた。
「奏汰くん、には特に、悲しませたくなかった。す――」
何かを言いかけたが、途中で「大好きな幼馴染だから」と言い換えた。
僕だけに見せた、あいらの本音を聞けて良かった。気がおかしくなりそうなほど、愛している人の本当の気持ちを、聞けて良かった。
「――僕はあいらが消えても、ずっと大好きだから。あいらは、一人じゃない。だから大丈夫だ」
「……ありがとっ、奏汰くん。ずっと、ずっと愛してくれて、ありがとう」
何か言いたげな表情をしていたが、結局、あいらはその言葉を口にすることが無く、この世を去ってしまった。