「奏汰くん、見て見て!」

 数日後にあいらのお見舞いへ行くと、何故かあいらは浴衣を着ていた。

 「似合う?」

 ピンクの花柄の浴衣。好きな人のいつもと違う服って、こんなにもドキドキするのだろうか。

 「……似合って、るよ」

 「やったあ! 看護師さんに着せてもらったの。今日、地元の花火大会があるでしょ? でも、私行けないからさ」

 そういえば、と思った。最後に花火大会に行ったのは、小学生の頃だろう。僕の家族とあいらの家族で、一緒に行ったっけ。

 ――あの頃に戻れたらいいのに。叶わないと分かっているけれど、ただただ願った。

 「ここの窓から見れるから。一緒に見よ、奏汰くん! いいでしょ?」

 満面の笑みで、あいらはそう言った。自分の胸が高鳴っているのが分かる。

 こんなの、断れるわけがないだろう。

 「うん、もちろん」

 「やったっ!」

 と、嬉しそうに両手を上げ、喜んだ。こんなに元気で明るいから、癌を患っているだなんて忘れてしまいそう。……いいや、忘れたい。

 「奏汰くん? 大丈夫?」

 ハッ、と我に返った。僕が暗いことばかり考えてしまって、あいらを心配させては駄目だ。

 そう思い、心を切り替えた。

 「大丈夫、ごめん。……そういえば、ノート、使ってるの?」

 僕はなんとか話題を変えた。明らかに怪しかっただろうか。

 「うん! もちろん、書いてるよ。中学生のときさ、私友達と交換日記つけてたのね。でも三日坊主になっちゃってー」

 あははっ、と口を大きく開けて笑った。今思えば、この前来たときよりも、少し顔が痩せ細っている気がする。

 ……きっと、あいらは頑固な所があるから、無理して笑っているのだろう。

 「あいら、無理して笑わなくてもいいんだよ。僕の前では弱気でもいいんだよ」

 そう言うとあいらは笑いを止め、俯いてしまった。
 すると、外からドン……と豪快で華やかな大きな音が聞こえた。

 「あっ、奏汰くん見て! 花火始まったよ」

 そう言って、あいらは勢いよくカーテンを開け、窓辺を見た。

 ……先程の返事を聞けなかった。

 「うわあ、綺麗。今の見た!? 虹色の花火だったよ、凄いよね」

 「――うん、綺麗だね」

 この時間を忘れてしまいそうになるくらい、花火は綺麗だった。

 それよりも、あいらがとても美しかった。ガラスのように透き通っている目をしていて、僕は見惚れていた。

 「……素敵だなあ。この世を去る前に見れて良かった! 生きてて良かった、本当に」

 あいらが俯いていたた顔を前に上げた時、光った何かが顔に零れ落ちたのは、気の所為であってほしいな、と思った。