朝日が眩しく、雲一つない青空。僕はゼリー飲料と一冊のノートを手に取り、彼女の病室へと向かった。

 「奏汰くん!」

 「あいら、お待たせ――」

 「もう、遅い。待ちくたびれたんだからねっ」

 僕がまだ話しているというのに、あいらは頬を丸くし、怒っている様子だった。

 小さい頃から頑固でわかままなあいら。こういうところも可愛い……と思う。

 「あっ! ノート買ってくれたの、ありがとう!」

 今度はパーッと明るい笑顔を見せた。情緒不安定か……と僕は心の中でツッコミを入れる。

 あいらは昔から何かを続けることが苦手だ。今回も、ノートに書くことを続けられるのだろうか。

 「このノートに何を書くの?」

 「んーそれはねー、秘密! 私が死んでから見せてあげるっ」

 死という言葉に、僕は心が重くなった。

 ――あいらは、原因不明の癌を患っている。

 ついこの前、 “一ヶ月” という余命宣告をされたと聞いた。

 「あ、私が好きなやつじゃん! マスカット味」

 あいらが入院しているここの病院のコンビニで、僕はゼリー飲料とノートを買った。

 あいらとは、小さい頃からの幼馴染。わがままで、意地っ張りで頑固だけれど、お年寄りを助けたり、落とし物は必ず拾ったりする、とても優しい子だ。

 「飲みたかったんだよねえ。ありがとう、奏汰くん」

 「ん、他にもあったら言って」

 「うん、奏汰くんに全部頼みます! 自慢の幼馴染だからね!」

 幼馴染という言葉は、僕にとって聞き難い関係だった。

 ――僕は、生まれてから15年間、色々なあいらを見てきた。あいらを女性として、好きだ。でも告白はできない。あいらには、精一杯人生を楽しんでほしいから。思いたくもないけれど、あと一ヶ月の命なら尚更。

 「あいらちゃん、そろそろ検査の時間です」

 「わ、そっか。またね、奏汰くん!」

 僕は小さく「またね」と返し、一人で家に帰った。とても孤独で、地獄のような帰り道だった。

 家に帰って、僕は一人であいらのことを考えていた。

 まだ高校一年生で、八月。世の中にはたくさんの人がいるのにどうして、あいらが選ばれてしまったのだろう。

 なぜあいらが死ななければならないのだろう。なぜ世の中はこんなに理不尽なのだろう。

 自分でも知らないうちに何粒もの涙が頬を伝った。

 ――この恋は、どうして諦めなければいけないのだろう。