『2月20日。くもりのち█れ
2月21日。█暗い日。
2月22日。また冬に█戻りだ。
まこ、また会おうね。次は█限なしの█しよう。
あり█とう。だいすきだよ。』
しおれた紙に書かれたミミズが這うような頼りない字を見つめる。自分で書いた筈なのに、所々読めない文字がある。昔はもっと綺麗な字だったんだけどな。そう呆れながら首の後ろを掻く。
真瑚に返事をしようと書いていた手紙。傍から見たら手紙とは言えないものだが、俺にはこれが精一杯だ。
書きたいことは走馬灯の様に山ほど溢れて来たが、それを文字に写す事が出来ず三日が経ってしまった。真瑚に倣ってせめて天気でもと思い、それだけは欠かさず書いていたのだ。
誰かに書いてもらう事も出来たのに、俺がそれをしなかったのは、真瑚への思いを直接伝える為。だが正直、俺の思いを真瑚にどう伝えるべきなのか。それが分からなかった。
しかし俺がこの世界を去る直前に、やっと思いついたんだ。余命に縛られていた俺たちの未練と、硝子細工の様に繊細な愛言葉を。
簡素だけれど複雑で、重厚で、透明よりも透明な言葉。そう思っている。
俺は死んでしまった。真瑚の「またね」を守りきる事が出来なかった。真瑚の次の手紙も、受け取る事が出来なかった。
俺はずっと、真瑚を裏切るような事ばかりをしていたな。
「ごめん」
そう誰にも届かない声で呟いた。
きっと真瑚はもう俺の元には来ないだろう。そんな気がする。それで、後になって沢山後悔するんだと思う。だからこそ、あの手紙を誰かが届けてくれる事を願っている。
多少寂しくはあるが、それで良い。
後悔の多い人生だった。でも、純粋に恋をする事ができた。ただ一途に人を愛する事ができた。その事実だけで、万々歳だ。そう今決めつける。
そして何より、その相手が真瑚で良かった。
真瑚。
十五年も愛してくれてありがとう。