『2月21日。パッとしない天気です。今日は一日中暗い気分だったよ。そっちはどう? 

 手紙、ちゃんと届いたみたいで良かったよ。読んでくれてありがとう。懐かしかったでしょ。
 書いてる時ね、ずっと幸せだった。思い出すだけでもお手軽に幸せを感じる事ができちゃうなんて、静兄は偉大だね。
 でも静兄も一緒じゃない?…………』

 この前と同じように便箋を埋めていく。一瞬一瞬で選んだ新鮮な言葉を書き連ねていった。
 まるで目の前に静兄が居るかのように文字は話し続ける。そこに焦りは一切無く、ただ純粋に、彼との思い出話に花を咲かせた。

 自然と顔が綻ぶ。そういえばいつか決めた事があった。「昔話だけは必ず笑って話そう」と。世界で一番大好きな人との約束だ。絶対に守らなくては。

『…………お花見。この前行こうって約束したけど、どう? 静兄と一緒にしたいな。私はずっと待ってるからね…………』

 そんな文を書いている途中、視界が歪み出した。昔話を笑って過ごすなら、未来の話は泣いてもいいよね。そんな理由をつけて泣いた。
 花見なんて出来る訳が無い。頭では分かっているけれど、受け入れる事が出来なかった。夢を見ていたかった。
 大粒の涙が便箋に落ちる。滲んでいく文字を見ても、ダムの崩壊を止める事は出来なかった。


✍︎


 「静くん、死んじゃったって」

 そう母から聞かされたのは、手紙をポストに食べさせた次の日。きっと彼に手紙は届いていないのだろう。あまりにも早すぎるでしょ。
 静兄に伝えたい事、まだまだあるよ。
 もう一回、名前を呼んで欲しいよ。

 おかしいな。手紙を書いた日はあれだけ泣いたのに、今は一ミリも涙が出てこない。『静兄が死んだ』という事実。それが自分の中で軽いものの様に思えた。
 でもそんな筈無い。十五年間の静兄への思いは計り知れないぐらいの大きさの物だったから。絶対にあの感情は、彼への恋は、本物だから。
 母の言葉を何度も反芻する。それでも涙は一滴も出なかった。

 そんな自分にただただ失望した。私から静兄への思いは所詮そんなものだったのか。あんな手紙を書いておいて、私の感情は嘘だったのかもしれない。
 私はずっと、彼に何を思って来たのだろう。

 ごめんなさい。

 そんな感情一つとっても、私は私を信じる事は出来なかった。