ホームズとポアロ 〜アンソレイエ学園事件簿〜

旧資料室の室内は整然としていた。
棚も机も乱れておらず、中央の展示ケースだけが、ぽっかりと空白を抱えている。

「ここにあったのは?」

リベルタが問う。

ティリットが答える。

「“名探偵継承計画”に関する極秘資料。過去の探偵たちの捜査記録、心理分析、未公開事件ファイル」

セレネが息を呑む。

「……それって」

アルテミスが静かに続ける。

「私たちの祖先に関する資料も含まれている」

一瞬、四人の間に沈黙が落ちた。

リベルタが展示ケースを覗き込む。

「割られていない」

「ええ」

アルテミスが頷く。

「鍵も壊されていない」

「なのに中身だけ消えた」

セレネが小さく震える声で言う。

「まるで……最初から存在しなかったみたい」

その言葉に、リベルタの目が細くなる。

「違う」

「え?」

「“存在していたこと”を前提に犯人は動いている」

アルテミスが横目で見る。

「どういう意味?」

「盗んだのは資料そのものじゃない」

リベルタはゆっくりと言う。

「“情報”だ」

アルテミスの瞳がわずかに揺れた。

「……続けて」

「資料は持ち出されていない可能性がある」

「は?」

セレネが瞬きをする。

「でも、空よ?」

「写真撮影、スキャン、あるいは一時的持ち出し後の返却」

リベルタはケースの縁に指を滑らせる。

「犯人の目的は“独占”ではなく、“利用”だ」

ティリットが低く問う。

「利用?何に?」

その瞬間、廊下の奥で乾いた物音が響き、四人が同時に振り向く。

静まり返る校舎。

「どうやら、まだ終わっていないみたいね」

アルテミスが小さく囁く。

そしてその足音は、こちらへ近づいていた。