ホームズとポアロ 〜アンソレイエ学園事件簿〜

校舎内の廊下。
教師と他の生徒たちが先へ進む中で、アルテミスはふと足を止めた。

「さっきの評価、根拠を聞いても?」

背後で立ち止まったリベルタが、片眉を上げる。

「気に障ったか?」

「いいえ。ただ、理由が気になっただけ」

アルテミスは穏やかな口調を崩さないが、その瞳は真剣だった。

「写真より観察力が高そう、って言ったわね。どこを見てそう判断したの?」

リベルタは一瞬だけ考える素振りを見せ、それから淡々と答える。

「歩き方と視線の動き、周囲の反応への対処だよ」

「正門をくぐった瞬間、君は一度も視線を泳がせなかった。それどころか――」

リベルタはアルテミスの胸元を指で示す。

「心拍数を抑えようとして、無意識に呼吸を整えた。緊張しているのに、悟らせない訓練を受けている」

セレネとティリットが少し離れた場所で足を止め、様子を見守っている。

アルテミスはふっと息を吐いた。

「なるほど、鋭いわね」

「否定しないのか?」

「事実だもの」

アルテミスは一歩前に出て、今度はリベルタを見つめ返す。

「でも、あなたも同じよ。退屈そうな態度、わざとでしょう?」

リベルタの瞳がわずかに細くなる。

「周囲に興味がないふりをして、視界の端で全体を把握している」

「本当に無関心なら、右手の指がそんなふうに動かないわ」

リベルタの指先が無意識に止まる。

「ふぅん……」

アルテミスは微笑んだ。

「観察力は、あなたの専売特許じゃない。ポアロ家も、観察力に長けてるの」

「面白い」

リベルタは初めて、はっきりとした笑みを浮かべた。

「なら、どっちが本物か、いずれはっきりするな」

「ええ、望むところよ」

二人の間に、静かな火花が散る。

セレネが小さく肩をすくめ、ティリットが苦笑いをした。

「これは、面倒な学園生活になりそうだね」

「でも、退屈はしなさそう」

名探偵の血を引く者同士の静かな宣戦布告だったが、その空気は長くは続かなかった。