昼休み、アンソレイエ学園の旧校舎裏。
秋の木漏れ日が、木々の隙間から静かに差し込む。

そこに姿を現したのは、学生会副会長のローザ・フィンチ。
整った顔立ちに、どこか焦りを隠すような目の動きが見て取れる。

リベルタとアルテミスは、あえて人気の少ないこの場所で彼女を呼び出していた。

「ローザさん、少しだけ、お話を聞かせてもらえますか?」

アルテミスの声は穏やかだったが、その目はまっすぐにローザを射抜いていた。

「ええ、構いませんけど。なんの件かしら?」

ローザは笑みを浮かべるが、声には微かに緊張が滲む。

リベルタが話し始める。

「校内のロッカーが荒らされる事件があったことは、ご存じですよね? あなたの立場なら、鍵の管理状況にも通じているはず。」

「それは知ってるわ、でも、私は何も」

「もちろん、あなたが直接手を下したとは言っていません。ただ、関与の可能性について、いくつか確認させてほしいんです」

アルテミスは静かに言葉を継ぐ。

「このリストにある、鍵へのアクセス権限者。あなたの名前も含まれているわ。そして、あなたがかつて写真部に籍を置いていたことも、調査でわかっているの」

ローザの瞳が一瞬、揺れた。

「た、確かに、少しだけ。でも、それが何か関係あるの?」

リベルタは懐から、一枚のプリントアウトを取り出した。

「この写真。アルテミスが盗撮されたものとされていたけど、画像の端にある反射光。これは特殊なレンズと、日光の角度を利用した撮影技法。一般生徒には扱えない代物よ」

ローザの呼吸が少しだけ浅くなる。だが、口を閉じたまま黙していた。

沈黙が数秒続く。

そのとき、アルテミスの声が再び空気を震わせた。

「ローザさん。あなたはキャサリン・グラントと、どんな関係にあるの?」

ローザはついに、視線を逸らした。

「昔、親しかったの。でも今は違う。彼女は変わったわ……完璧でいたいという願望が強すぎるの。ポアロさん、あなたが入学してきてから……」

声が震えた。

「ずっと彼女、怖がっていたのよ。自分が女王の座を失うことを」

アルテミスの瞳が静かに細められる。

「つまり、彼女の恐れ。それが動機になった可能性があるということね」

「でも、私は関わってない。本当に」

ローザはそう言い残すと、小走りでその場を去っていった。

リベルタはその背を見送りながら、アルテミスに囁いた。

「彼女、何かを隠しているわ。でも決定的じゃない」

アルテミスが小さく頷く。

「キャサリンを表立って疑うには、まだ証拠が足りない。でも、心理的な焦点は定まってきた」

その時、ティリットが駆け込んできた。

「リベルタ、アルテミス! 写真部の旧データベースから、変なフォルダを見つけた! ロックがかかってるけど、日付が例の事件の前日!」

二人は目を見交わす。

リベルタが静かに言う。

「いよいよ、核心に近づいてきたわね」

アルテミスは、まっすぐ前を見据えた。

「恐れに支配された少女の真実を、引きずり出しましょう。どんな罠であれ、私たちは抜けてみせる」

秋の風が、学園の屋根をかすめるように吹き抜けた。