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「ここが、アンソレイエ学園」

アルテミス・ポアロは正門前で立ち止まり、荘厳な建物を見上げる。
歴史と威厳を感じさせるその学園は、名門と呼ばれるにふさわしい風格をまとっていた。

「ねえ、緊張してる?」

隣で声をかけてきたのは、セレネ・ヘイスティングズ。
明るい笑顔でアルテミスの肩を軽く叩いた。

「ちょっとだけ。でも、あなたが一緒で助かるわ」

アルテミスは小さく笑って答えた。
二人が正門をくぐると、すでに登校していた在校生たちがざわつき始めた。

「もしかして、あれが……」

「ポアロの子孫と、ヘイスティングズの?」

「ってことは、本物の名探偵コンビ⁉」

アルテミスはその視線を感じながらも、堂々と胸を張って歩いた。
セレネは彼女の隣で気楽そうに笑っているが、その目は周囲の反応を冷静に観察していた。

「アルテミスさん、セレネさん、こちらへどうぞ」

背後から呼ばれ、振り向くと一人の教師が優しい笑みを浮かべて立っていた。

「リベルタ・ホームズ君はもう校内に入っています。君たちにも大いに期待していますよ」

その言葉にアルテミスはわずかに眉を上げた。
ホームズの名を聞いた瞬間、胸の奥で何かが動き始めた気がした。

「いよいよね」

セレネが小声でつぶやく。
アルテミスはうなずき、教師の案内で校舎の中へと足を踏み入れた。

高い天井、静かな廊下、どこか空気が張り詰めている。
まるで学園そのものが生徒たちを試しているような雰囲気だ。

教室に入ると、すでに数人の生徒が着席しており、その中でもひときわ目を引く人物が窓際の席に座っていた。

漆黒の髪をきちんと撫でつけ、ノートにペンを走らせていたその少年――リベルタ・ホームズ。
リベルタはアルテミスの存在に気づくと、すっと顔を上げた。

「あんたが、アルテミス・ポアロか?」

低く冷静な声だったが、その瞳は鋭く、アルテミスを値踏みするように見つめていた。
アルテミスも目を逸らさずに一歩前に出て、小さく会釈する。

「ええ。そして君が、ホームズの子孫というわけね」

互いに名乗ることもなく、だが確かに探るような視線が交錯した瞬間だった。

その静けさを破ったのは、リベルタの隣の席にいたティリット・ワトソン。

「おお、噂の名探偵レディがご登場だ! 一緒のクラスだなんて、こりゃ今年の運を全部使ったな!」

にこやかにそう言って立ち上がると、ティリットは気さくに手を差し出す。
その明るい声に、教室の空気が少しだけ和らいだ。