ホームズとポアロ 〜アンソレイエ学園事件簿〜

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「ここが、アンソレイエ学園」

アルテミス・ポアロは、門の向こうにそびえる校舎を見上げながら小さく息をついた。
重厚な石造りの建物は、長い歴史と揺るぎない威厳をそのまま形にしたようで、名門の名に恥じない風格を漂わせてい

「ねえ、緊張してる?」

隣で声をかけてきたのは、セレネ・ヘイスティングズだった。
セレネは明るい笑顔でアルテミスの肩を軽く叩く。

「ちょっとだけ。でも、あなたが一緒で助かるわ」

アルテミスは小さく笑って答えた。
二人が正門をくぐった瞬間、在校生たちの空気が微妙に変わるのを感じた。

「もしかして、あれが……」

「ポアロの子孫と、ヘイスティングズの子孫?」

「ってことは、本物の名探偵コンビじゃないか⁉」

アルテミスはその視線を感じながらも、堂々と胸を張って歩いた。
セレネは彼女の隣で気楽そうに笑っているが、その目は周囲の反応を冷静に観察していた。

「アルテミスさん、セレネさん、こちらへどうぞ」

背後から呼ばれ、振り向くと一人の教師が優しい笑みを浮かべて立っていた。

「入学おめでとう、君たちの入学を、心から歓迎します」

「ありがとうございます」

アルテミスは軽く会釈し、セレネもそれに倣った。

「私は君たちのクラスを担当する、レイモンド・クロフォードです。今日は案内役をつけましょう」

教師――レイモンドがそう言って視線を向けると、校舎の影から二人の生徒が歩み出てきた。

一人は、切れ長の灰色の瞳をした少年。
どこか退屈そうに周囲を眺めているが、その視線の鋭さは隠しきれていない。
もう一人は、穏やかな表情の中に芯の強さを感じさせる少年だった。

「こちらが、リベルタ・ホームズ君と、ティリット・ワトソン君です」

その名が告げられた瞬間、周囲のざわめきが一段と大きくなる。

「ホームズ……!」

「ワトソンって、まさか……」

リベルタは小さくため息をついた。

「入学初日だというのに、噂が広まる速度が速すぎるな」

「まあまあ、名家の宿命だよ」

ティリットは苦笑しながら、アルテミスとセレネの方へ一歩踏み出した。

「はじめまして、僕はティリット・ワトソン。こちらは――」

「言わなくていい」

リベルタがティリットの言葉を遮り、アルテミスをまっすぐに見据える。

「あんたがアルテミス・ポアロか。写真で見るより、観察力が高そうだ」

アルテミスは微笑みを崩さず、軽く肩をすくめた。

「初対面でそんな評価を下すなんて、あなたこそ噂以上ね。リベルタ・ホームズ」

一瞬、二人の視線が交差し、空気が張り詰める。
名探偵の血を引く者が、ついに同じ場所に集ったのだった。