ホームズとポアロ 〜アンソレイエ学園事件簿〜

「誰か……来た……?」

アルテミスが、わずかにかすれた声でつぶやいた。
記念塔の静寂が、張りつめた空気と共に凍りつく。

下の階から、再び軋むような足音。

ティリットが咄嗟に懐中電灯の光を消した。
月明かりだけが、かろうじて四人の顔を照らしている。

「隠れる場所を探して……!」

セレネが低く言い、すぐ近くの古びたカーテンの裏と、支柱の影へと身を滑らせた。

アルテミスとリベルタは、塔の壁に密着しながら耳を澄ませる。
足音はひとつ。誰か一人が、確実に階段を上がってくる。

やがて、扉がゆっくりと開く。
そこに現れたのは、一人の教師だった。

アレクシア・ダール。
落ち着いた佇まいと知的な風貌の、歴史担当の女性教員。
昼間、理事長室前で時計の盗難を話していた中の一人だ。

「やはり、ここに来ていたのね」

アレクシアは誰に話しかけるでもなく、静かに呟いた。
そして、彼女は真っすぐに天井のMの場所へと向かった。

「知ってる? これはMemory(記憶)の頭文字なの」

まるで独り言のように語る声が、塔に反響する。

「この学園の真実を、忘れさせないための印」

四人は息を呑み、固唾をのんで見守る。

彼女は天井の仕掛けを開け、そこに残された空の箱を見て、ふっと小さく笑った。

「なるほど、あの子たちが先に辿り着いたのね」

その瞬間、セレネが壁際から静かに出てきた。

「どうして、ここに?」

問いかけの声には、警戒と確信の両方が滲んでいた。
アレクシアは、まるで驚いた様子も見せずに振り返る。

「それを聞くのは、私の方じゃないかしら?あなたたち、立ち入り禁止区域で何をしているの?」

他の3人もカーテンや壁から姿を現す。

「この場所を知っていて、しかもMの意味まで……あなたが犯人なの?」

アルテミスの言葉に、アレクシアは静かに首を振った。

「いいえ。けれど、私は知っているの。盗まれた時計と、この塔に残された記憶が、同じものを象徴していることを」

「それってどういう意味ですか?」
ティリットが前に出る。

アレクシアは少しだけ微笑む。

「本物の懐中時計には、ある記録が刻まれているの。C.L.ヴァレンタイン、創設者が遺した学園最大の秘密よ」

四人の顔が強ばる。

「つまり、犯人はその秘密を利用しようとしている……?」

リベルタの問いに、アレクシアは答えず、そっと視線を落とす。

「この先は、あなたたち自身で見つけなさい。私は手出しをしないと決めたの」

そう言い残して、アレクシアは階段を降りていった。