お葬式というものは、残された人達のためにある。
多忙な事務的な処理をこなし、別れの瞬間を悲しませなくするための儀式だ。

もちろん私も参加する。
学校のみんなも来るだろう。

「早くしなさい。遅れるわよ」
下の階で母親の声がする。

「今行く!ちょっと待ってて」
制服に黒いリボンをつけた私は洗面台の前に立つ。

おへそまであるロングヘア。
カナタが似合うというのでずっと伸ばしていた髪の毛だ。

「水飴みたいに綺麗だね」
私にとって自慢の髪。

褒めてもらえるようにお手入れしていたこの髪は、いつしかこんなにも長くなっていた。

前髪の隙間からいつだって見ていたよ。
恥ずかしいから。バレないように。

手首につけていたヘアゴムで髪の毛をくくり、裁縫箱のセットから重い金属製の裁ちばさみを取り出す。

手芸部で良かった。
束ねた私のロングヘア。根本からザクリと切り取る。

「ショートカットも似合うよね」

鏡に映る赤い目をした女子高生。見慣れぬその姿は、肩まで切りそろえられたボブスタイルだ。

葬儀場に入ると、カナタはたくさんの花に包まれていた。
こんなにも花が似合う人であっただろうか。

きっと間違っている。
あなたに似合うのは日に焼けた肌とサッカーボールだよ。

こんなにも狭い木の棺で。
どうして目を覚ましてくれないの。

参列者が順繰りと歩く祭壇の前で、ただ1人。カナタのそばから離れられなかった。

きっと私の顔は今すごく不細工だ。本当はメイクして、1番可愛い顔で見送りたかったのに。
でも何をどうすることも出来なくて、ただ無表情に寄り添っていた。