私の初恋の相手は、間違いなくカナタだ。
幼稚園の時には、背の低かったカナタも、高校生になると首を30度傾けて見上げるようになった。

低くなった声や、平らな厚い胸板。
脛や腕から生えている濃い色の体毛を見ると、胸の奥で桜のつぼみが芽吹くような感覚がする。

幼少期からサッカーに励むカナタを、家族ぐるみで何度も応援しに行っていた。

いわゆる熱い男で、信頼も集める彼は、友人からも先生からも頼られていた。いつも輪の中心にいて、真剣にボールを追う姿は見ていてとても楽しかった。

正直ただの幼馴染の関係だと思っていた。
けれど数学や生物の成績はいつもトップ。サッカー部でキャプテンをしているカナタは学校中の男子で一番の競争率だった。

高校1年になりたての春のこと、クラスで一番かわいい女子の財布が盗まれる事件があった。
そして、その日たまたま遅刻して最後に教室に入った私が犯人として疑われてしまったのだ。
あれよあれよと話が展開していき、何度違うと話をしてもスズナという大泥棒が成立していた。

まくしたててくるクラスメイト達に取り囲まれても、やっていない事はやっていない。
しかし多勢に無勢だ。

すると、全てを黙って見ていたカナタが教室の一番後ろの席で大声で言った。
「違う。スズナはそんなことしない」

私は泣いた。
ちゃんと見ていてくれる人がいた。
味方になって、周りと戦ってくれた。

昔は泣き虫だった私も、いまはさすがに高校生。
ぽろりと1つ涙がこぼれたが、セーターの袖で何事もなかったようにぬぐった。

でもカナタにはばれていた。
耳元で小さな声で囁かれる。
「大丈夫。後で氷で冷やさなきゃな」

眼差しが優しかった。
瞳の黒い部分には、私しか写っていない。

後に、犯人は3年生の生徒だったと判明した。

「な?スズナはそんな子じゃない。俺が一番分かっている」
笑う口元から白い歯が光る。
その笑顔は私だけに送られたものだ。

いつだってカナタは優しい。
今まで当たり前のように側に居てくれた。

でも今は、彼にとって特別な存在になりたい。そう願うようになった。