僕はもう何日もスズナの部屋に居座り続けている。
ここはいつも片付いていて、とても快適だ。

ふかふかに整えられたベッド。
薄いブルーで統一された小物。
ウサギとクマのぬいぐるみもある。
この部屋のインテリアの殆どは、手先が器用な彼女が高校の手芸部で作ったものだ。

男兄弟しかいない僕にとって、女の子の部屋というものは秘密の花園ともいえる。
細々とした可愛らしいものがたくさん並んでいるその様は、まるでアイシングクッキーのごとく触れてはいけない気がした。

ふと漂う白い煙。
なんとなくケヤキのような香りが鼻腔を刺激する。
スズナが最近焚いているお香の匂いだ。

この湿った土を感じさせる何かは、正直に言ってしまうと彼女の部屋には少々不釣り合いだ。

まぁでもしょうがない。
これも彼女が選んだのだから。

空気のように居候している僕は、黙ってそれを受け入れるしかない。

初めて立ち入ったのは、ちょうど年明けのこと。
約2か月が経った。
彼女が高校に行っている間にスルリを忍び込んだのだ。

その日から何日もずっとここで生活している。
特に理由や目的は無い。

ただ、スズナを眺め、触れ、一方的に話しかける。
それだけだ。

それ以上に何がしたいかって?
いや、それだけで十分だ。

もちろん、時々外出もする。
学校へ向かうスズナをそっと、校門まで見送る。

その後の授業は、バックレてスズナの家に先に帰ることが多い。
もしくは、今は母だけが残る実家のアパートに顔を出す事もある。

たまに部活を除いたり、先祖の墓参りをしたり。
僕は意外と忙しくしている。