浮かれたまま帰宅した僕は、ベッドに入ってスマホをひらく。

『ぜったい、遅刻しないように!』

 維麻からのメッセージに、手持ちのいくつかの中から吟味した、可愛すぎず、ありきたりすぎず、ウケを狙って逆にスベってる感じにもなっていないであろうスタンプで返信する。

 そのまま。
 ふと、思い立って、ブラウザの検索画面を開いた。
 とても楽しい一日だったはずなのに、妙な胸騒ぎがしていた。
 
 検索欄に、維麻の降りた駅名を入力する。
 とりたてて何もなさそうな、もしかしたら無人駅かもしれない駅。

 そこには、何もないわけではなかった。
 駅名で調べると、検索エンジンの一ページ目はすべて同じ施設のリンクが並んでいた。
 とても珍しい病気の、専門療養施設だ。
 ──その所在地が、あの駅だった。
 いわゆるホスピスとか、昔ならサナトリウムとか。
 助からない病を患った人が、さいごに過ごす施設が、そこにはあった。

「……まさか」

 僕はもやもやと湧き出てくる暗雲を振り払うようにして、布団をかぶった。
 維麻は「別荘がある」と言ってたじゃないか。
 あんなに元気そうな彼女が、まさか。

 突然の転校。
 真っ白い肌。
 細い手足。
 ──維麻の、寂しそうな横顔。
 
 そう自分に言い聞かせる。
 けれど、今日、隣に座っていた維麻のあまりに白い肌と長すぎるほどに長い絹の黒髪、ほっそりと痩せた手足が、瞼の裏からいつまでも消えなかった。