「維麻がなんで、ここに?」
「ん。このへんにある別荘に来てたとこ」
維麻は、にっと笑ってピースした。
その笑顔が記憶の中の日焼けした顔とやっと重なった。
僕もつられて、頬を緩めてしまう。
そういえば、こいつ。けっこうなお金持ちだったっけ。
「なるほどね。てっきり、アメリカにいるんだと思ってたけど」
「え?」
「アメリカに行くからって、あんなに急に転校したんだろ?」
僕と維麻は小学校に入学したときに同じクラスに振り分けられて、席が隣同士だった。
それから、活発な維麻にひっぱられて毎日を楽しく過ごして。
維麻の転校によって、僕たちの関係は終わった。
小三の二学期が始まってしばらく経った頃という、中途半端な時期の転校だった。
珍しく維麻が僕の家を襲撃しに来なかった連休が明けると、クラスに維麻の姿がなかった。風邪でもひいたのか、珍しいこともあるもんだ。そう思っていたのだけれど。
数日後。親の転勤だかなんだかで、維麻は急にアメリカに移住することになったのだと、先生からクラスに伝えられた。
混乱したし、腹も立った。
あんなに仲良くしていた僕にも何も教えてくれないなんて。
「あ、あー……そういうことになってたっけ」
維麻が「しまった」という顔をした。
そのとき。
ギィッという音をたてて車両にブレーキがかかる。
終点に、到着した。
時刻表に記載された、予定時刻きっかりに。