「あれ、これ……こんなに書いたっけ?」

 どうにも普通のテンションでは開封する気になれずに、維麻との思い出の場所にやってきたわけだけれど。
 便せんの数が、なんだかおかしい。
 あれはラブレターといっても、兄貴からもらったA4のレポート用紙一枚に下手くそな字で馬鹿みたいな文章を書いたものだったはずだ。

 封筒の中身を確認して──心臓が、痛いくらいに跳ねた。
 ダサい封筒からは考えられないくらいに、可愛らしい便せんが何枚も折りたたまれている。

 ……維麻だ。
 維麻は僕に、あの手紙の返事をしたためてくれていたのだ。

 夜空に瞬く星を見上げる。
 僕の耳に、あの夜の維麻の声が鮮やかに蘇る。

『あの光は、ありとあらゆる『過去』が『今』に向かって光ってるんだ』

 なんだか、笑えてきた。
 と、同時に、泣けてきた。

 この無数に降り注ぐ星の光のどれかは、維麻が生きていた頃に宇宙を旅していた光だ。
 僕は目をこらす。
 そうすれば、維麻の星を見つけられるような気がして。
 もう二度と見ることはない、あの夜の彗星が、見えるような気がして。

 かつての僕ならば。
 そんな魔法みたいなことできるはずないとか、ぼやいていただろうか。

「心なりけり、心なりけり」

 流れ星みたいに輝いて、短い人生を終えた維麻。
 たった一晩だけの、僕の恋人。
 煌めくみたいに生きた彼女を、一生の思い出を僕にくれた君を。
 僕は、絶対に、忘れない。