明け方、兄貴の運転する車で病院に戻った維麻と僕は、病院で待ち構えていた師長さんにこってりと怒られることになった。
 けれど、師長さんは、最後にはふっと小さく息をついて、僕にそっと耳打ちしてくれたのだ。

「維麻ちゃんのこと、ありがとう」

 きっと、悪い人ではない。
 むしろ維麻のことを、よくわかっている人なのだと思う。

 帰りの車の中。
 朝日をぼんやりと眺めていると、維麻が病室から僕に電話をかけてきた。

『今日はアリガト。なんか、左腕まで痺れちゃって』
「……そうか」

 無理をしないで、とも。
 お大事に、とも。
 言えるわけがなかった。

 世にも珍しい天体ショーを演出してくれた神様は、維麻に奇跡を起こしてくれる気配はないのだから。

「あのさ、維麻」
『うん』
「よかったら、明日も彗星見ようよ。あと八日くらいは肉眼でも見られるみたいだから」

 他愛のない約束を重ねれば、その約束までは維麻が生きていてくれるんじゃないかと思えて──僕は、その幻想に縋った。

『いいね』

 電話の向こうで維麻が笑った。

『……明日も晴れだよ、和也』



 これが、維麻と交わした最後の会話になった。