「ねえ、和也。思ったこと言っていい?」
魅入られるように望遠鏡を覗いたまま、維麻が言った。
「何?」
「彗星って……思ったより、地味なんだね」
ぶっ、と思わず吹き出してしまう。
天真爛漫で、歯に衣着せぬ東条維麻の本領発揮だ。
小学生の頃、引っ込み思案だった僕をどこへでも連れていってくれた、僕の恩人。そして──。
「そういうとこ。ほんと、好きだな」
「お?」
「維麻のことが、好きだって言ったんだよ」
ずっと秘めていた言葉が、ぽろりと零れてしまった。
ああ、でも。
もういいんだ。
だって、目の前にいる維麻に伝えないでいる理由なんてないんだから。
「あの恥ずかしい手紙書いたときから、ずっと変わらず好きだよ。維麻」
「一途だねぇ」
「そこ、茶化す?」
「まさか」
維麻が、ゆっくりと、望遠鏡の前から立ち上がる。
「……私もずっと、和也が好き」
でも、と維麻は続けた。
「ごめんね……好きって認めちゃうと、死ぬのがもっと怖くなっちゃいそうだったから。和也とはもう、こうやって一緒の時間を過ごせないって認めるのが辛くなっちゃいそうだったから」
だから、ずっと言えなかった。
維麻は泣きそうな顔で、笑った。
「これさ、私たち両思いってことじゃんね?」
「まあ、そうだね」
「じゃあ、私はきみの彼女ってわけだ」
「そ、」
そういうことに、なるのか?
思考回路が焼き付きそうだ。
「で、きみは私の彼氏!」
維麻が声を弾ませる。
けれど、その声は震えていた。
「悪い彼女だから彼氏クンを置き去りにしちゃうよ」
「……一生忘れないよ」
だから、僕は何度でも伝える。
「どの思い出も地味だったし、彗星だってアニメで描かれてるみたいな虹色に輝く派手な天体ショーじゃなかったけど、それでも──」
僕は絶対に忘れない。
これから、誰とどんな思い出を作っても、絶対に今夜のことを思い出す。
……維麻と過ごした時間を、何度だって探し出す。