「星の光は、長い時間をかけて私たちのもとまで届くでしょ? 恐竜が生きてるときに宇宙を旅してた光とか、縄文人のカップルが初キスしたときに光った光とかが、今まさに私たちが見ている光なわけ」
わかるような、わからないような。
僕は黙って、維麻の講義に耳を傾ける。
「だからさ、こうして私たちが喋ってるときに宇宙を旅してた光が、何年後か、何十年後かに地上に届くんだよ」
「……たしかに、そうなるね」
「こんなに星があるんだからさ、色んな時間の色んな光が、ここに降り注ぎ続けてるんじゃないかなーって思うんだ」
維麻の口調は、なんだか祈るようだった。
「あの光は、ありとあらゆる『過去』が『今』に向かって光ってるんだ」
「なんか、壮大すぎて怖いな」
「そう? 私、そう考えるといつもホッとするんだ──私が死んだあとも、私の生きてた時間は光り続けるんだって思えるから」
ああ、なんで。
どうして維麻は、自分が死んでしまうことを軽々と口にするんだろう。
また何も言えずにいる僕が吐き出す沈黙が、夏の空気を重くした。
「ね、はやく彗星を見よう」
重くなった空気を吹き飛ばすように、維麻がはしゃいで見せてくれる。
僕は維麻に急かされるままに、また望遠鏡を覗き込んだ。