望遠鏡の三脚の組み立ては難航した。
 不慣れなうえに暗闇の中での作業に、手元が覚束ない。
 やっと組み上がってからも、肝心の彗星を探すのに時間がかかった。
 彗星とはいっても、アニメのように巨大で虹色に光っているわけではない。
 満点の星空の中から見つけ出すのには、かなり骨が折れそうだ。

 僕がスマホで彗星の位置を確認していると、維麻が出し抜けに言った。

「きみは、星って呼ばれてるあれが、本当は何か知っている?」
「え?」

 夜空を見上げている維麻の横顔に、思わずみとれてしまった。
 維麻の薄い身体が、呼吸に合わせて上下している。

「……星は星だろ。正確に言えば、恒星だよね。自分で燃えてる星の光」

 僕は理科で習った知識を思い出しながら答える。
 これじゃ、なんだか本来、僕が精を出しているべき受験勉強みたいだ。
 
「そうじゃなくてさ」

 維麻はイタズラっぽく、歌うように言う。

「あれは、本当は『過去』なんだよ」
「……かこ?」

 謎かけみたいな答えに、僕は首を捻った。