『このあと二時に、天流駅の踏切で待ってる』
僕は送信したそのメッセージを何度も確認する。
腕時計は、一時五十八分を指している。
深夜二時。
こんな時間に外に出たのなんて、はじめてのことだ。
しかも、家から二時間以上かかる登山鉄道の途中駅──深夜バスと折りたたみ自転車を駆使してどうにかたどり着こうと画策していたところを、兄貴に見つかった。
乗せてやるよ、と兄貴は言った。
毎週末いそいそと出かけていったり、望遠鏡を借りたがったりする僕の様子に、何か感じるところがあったらしい。
大学二年の兄貴は、課題が忙しいとかでほとんど家にいないのに、よく見ているものだな、と感心した。昔から、家族のちょっとした変化にも気がつく人だった。
ともあれ。
この夏に免許を取ったばかりの兄貴の運転で、僕はこうして天流駅にたどり着けたわけだ。
しかも、気を利かせた兄貴は「じゃあ、せっかくだからドライブしてくるから」と僕をひとりにしてくれた。
「……兄貴には、しばらく頭が上がらないな」
天体望遠鏡に、キャンプ用のランタン、明け方の冷え込み対策のブランケットに簡易的な椅子、それから兄貴が持たせてくれたトランジスタ・ラジオ。
全部リュックに詰め込んで、馬鹿みたいな大荷物になっていた。
こんなもの、とうてい一人では運べなかっただろう。
大きく深呼吸をする。
夜の湿った空気を吸い込んで、吐き出す。
夏とはいえ、真夜中の山は冷えていて、鼻の奥がツンと痛んだ。
待ち合わせの時間まで、あと少し。
何もない田舎駅の前は、信じられないほどの暗闇に包まれている。
──だから。
遠い暗闇にチラつく懐中電灯が、まるで一番星みたいに煌めいて見えた。
「……維麻」