「ねえ、ごめんね。和也」
ひとしきり喚いて、維麻はぽつりと謝ってきた。
ふらふらとした足取りで、僕の胸に倒れ込んできて。
維麻の命がこぼれ落ちていくのが怖くて、その薄い身体を強く抱きしめることしかできなかった。
「わたし、こんなに怒ったの、いつぶりだろ」
あはは、と。
いつものような、ちょうどいい温度の笑い声をあげる維麻。
僕はもう何も言えなくて、ただ彼女を抱きしめる。
もっと僕の手足が長ければ、彼女をもっと強く、自分の腕の中に閉じ込められるのに。
十五才の、中途半端な身体が、恨めしかった。
「なんか、生きてるってかんじするわ」
「馬鹿。なに、言ってんだよ」
ずっと、我慢してきたんだろう。
泣きたいことも、叫びたいことも、踊り出したいことも。
同じ年の女の子なら当然持っているであろう喜怒哀楽を、この小さな身体に閉じ込めて、飄々と微笑むことを覚えて、我慢してきたんだ。
そんな維麻が愛おしくて。
維麻の努力を台無しにした自分が、本当に許せなくて。
「……和也、泣いてるの?」
泣いてなんかないよ、だなんて見え透いた嘘はつけなかった。
情けない僕を、維麻は笑った。
騒ぎを聞きつけたお医者さんや看護師さんが病室にかけこんでくるまで、維麻はずっと、笑い続けていた。
激情進行性脳機能不全症候群。
感情を昂ぶらせるごとに、身体の機能を奪われていくクソッたれな病気。
その日を境に、維麻の右腕は動かなくなった。