昨夜、オレは少女を盗んできた。
その日はオレも少女もスラムに帰る頃にはクタクタで、家についたらすぐに寝てしまった。
少女にはオレのベッドを貸している。オレはソファーで寝たけど、疲れていたからなのかぐっすり眠れた。朝メシの準備をしていると少女が起きてきた。
「おはよう」
「おはようございます…」
少女は控えめに返事をした。オレは続ける。
「腹減ってる?ミルクとパンしかないけど。」
「あの…私はどうなるんですか?」
少女は不安そうに聞いた。おそらく、また売られると思っているのだろう。
「嫌じゃなければさ、オレのとこで住まない?豪華じゃないけど寝床と3食つけるよ。オレが働いて帰ってくるまで家のことしたり、他の時間は好きにしてくれていいし。」
「いいの?」
「もちろん。だから君を盗んだんだ。」
実際、オレは日中は普通にスラムで働いて、夜は怪盗だ。少女が家のことをしてくれると助かるし、このまま1人にするわけにもいかない。少女はこくりと頷いた。
「決定だね。君、名前は?」
少女は口を開けてから、何も言わず閉じた。オレが少し近づいたら、もう一度口を開けて
「…名前、ないの。多分…私が知らないだけなのかもしれないけれど…」
と小さい声で言った。物心ついた時からスラムで育ったのだろう。身寄りがない子供はたまに自分の名前を知らずに育つ。どうしようか。少し悩んでからちらりと少女を見ると、目が合う。透き通るような青が暗く不安げに揺れる。
「サフィー…」
「…サフィー…?」
オレがつぶやくと少女が同じように返した。
「サフィーってどうかな?君の名前。」
不安げに揺れてた青が輝いた。
「…サフィーがいい!」
気に入ってもらえたようだ。とりあえず朝は2人で1つのパンを分けて食べた。少女…サフィーは遠慮がちに、でもとても幸せそうにパンを頬張っていた。