8
 伊沢和樹くん宛てへ。
 そう書かれた白い手紙が届いたのは、その翌々日のことだった。

-------------------------------------------------------------------------------------------------------

 ────前略。
 急にこんな手紙を出してごめんなさい。
 やっぱりね、心残りがあったからしっかり伝えます。

 昨日電話したとき……あ、えっといまはどのくらいで届くんだっけ?
 まあいっか。そのとき、私やりたいことリストは埋まったって言ったでしょ?

 あれちょっと嘘、でね。
 ……私、君と一回だけキスをしてみたかったんだ。

 それは……結局叶わなかったんだけど。
 
 ていうか、君デレるの遅すぎ。
 お互い入院してから、会いたいって言われても、私困っちゃうよ。
 他の人にしてたら絶対嫌われちゃう。まあ私は嬉しいからいいんだけどさ?

 でもね、きっと大丈夫だから。
 君がどんなに鈍くて、デレるのが遅くても私は待ってるよ。

 来世で会ったらたっくさん手を繋いでいろんなところにデートしにいって、たくさんちゅーする。だから、今度は私の事見つけて迎えに来てね。忘れちゃやだよ?

 ……それまであっちで準備して待ってるから。
 君が来たらすぐ腕掴んで即転生!するからよろしくっ!

 そしたら次は2人とも健康な体で産まれてこれるように、交渉しようねっ!
 だからね、泣かなくても大丈夫。私がいなくなっても大丈夫。

 私は伊沢くんに会えてすっごく幸せだったから。

 これはお別れじゃなくて、一旦の準備期間!
 私のことは心配しなくても大丈夫だから、君は君の人生を歩んでね。

 じゃ、またね。

-------------------------------------------------------------------------------------------------------

 手紙には一部涙で滲んだ跡があった。
 黒のインクが溶けて、青色が出てしまっている。

 夕梨からの手紙。
 いまはいなくなってしまった夕梨からの最後のメッセージ。

「夕梨だって……泣いてるじゃんか……」