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 後日、彼女が書いてきたものは精緻に尽くされたものだった。
 相変わらず読んでいるだけで映像が頭に流れてくるし、読者の手をとってくれるような彼女の優しさが文章に溢れている。

 彼女にとって世界がどう見えているのか、それがひしひしと伝わってきた。
 物事の捉え方、言葉遣い、登場人物の背景……それらを表現する単語ひとつひとつに彼女を感じられる。

 いまなら駒場の言っていた文章には人となりが出るという意味がわかる。
 読んでいるだけで心が暖かくなるような物語だった。

 素人の俺の文章と見比べるべくもなく、ただただ綺麗だった。
 物語に没入していた頭が冷え、現実世界に戻っていく。

 出掛けられなくても、まるで出掛けたかのような読後感。
 ……心の底から、彼女には誰かを元気にさせる能力があると実感させられる。

「ふぅ」

 ふと腕に繋がれた管を見やる。
 その先は、液体の詰まったパックがからんとぶらさがっている。点滴だ。

 俺の場合、余命宣告はほぼ間違いないらしい。
 いまとなっては学校に通うことも出来ずに、病院のベッドで寝転がっていた。

 病院には娯楽が少なく、必然と文章を読む時間も増えつつあった。
 それでも、必ず頭に過るのは夕梨のこと。

 夕梨に会えないことが、頑張っている夕梨に伝えられないことだけがつらい。
 感想を送ろうしたくても、俺の能力では伝えきることが出来ない。

 全部、夕梨に伝えたい。
 夕梨がどんなにすごい人物で、どれだけ俺を元気にしてくれたのかを。

 死ぬのはいい。
 すでに決まっていたことだから。
 
 起きられる時間が減っていくのはいい。
 まだ喋れるのだから。

 でも、死ぬ間際に出来た彼女。
 夕梨に会えないことが心残りだった。

 次第に書きたいものがだんだんと増えていった。
 遺したい。遺したい。2人が生きた証を。