月光の下、ゆらゆらと焔の如き瘴気を周囲に放つ男がいる。
それはかつて、愚かしい策を弄し、それ故に道満たちに阻まれ、自らの罪をその身で贖った愚か者である。
しかし、その精神性故に道満達を逆恨みすること甚だしく、その身を怨霊に窶してこの平安京へと舞い戻った。
その裏には、かの藤原満忠――、すなわち死怨院乱道の影があったが、それは道満たちはこの時点で知ることはなかった。
【あああ……、こうなればもはや全てはどうでもよいこと。このまま兼家が自らの責で死ぬさまを見たかったが】
「ふん……、今までは手加減していたとでも言うつもりか?」
【だとしたらどうする?】
道満は慎重にその認識眼で乾重延を見つめる。
かの怨霊の言葉が決してハッタリばかりでないことは、彼にははっきりと理解できた。
(――しかし、おかしい。何だ? コイツの身に感じる違和感は……)
道満はその怨霊の霊質に妙な違和感を覚えていた。
そもそも、目前の乾重延から、怨霊独特の狂気をそれほど感じなかったからである。
(怨霊というのは、一つの感情を死を超えるほどの強さで得たゆえに生まれる存在――、この男のような半ば理性的な言動を行えるのは明らかにおかしい)
――そう、実はそれこそが死怨院乱道によって生み出された、人造怨霊ゆえの特性であったが、このときの道満はその事情を気づくことはない。
【はははは……、我はもはやそのために行動する以外に道はない。そう――、このような浅ましい姿になったからには】
乾重延はかつてを思い出す。
自らがこのような姿に成り果てた……、その時の全てを。
【ああ……乱道法師――】
◆◇◆
それは、もはや彼自身覚えてはいないかつてのあの日、乾重延は”あの男”と偶然出会った。
無論、それは彼だけが偶然だと考えているだけで、その”男”にとっては必然でしかなかったが――。
「乾重延……様ですね?」
「む……お主は、どこかで?」
「いえいえ……、私はただの旅の僧。乱道法師……そうお呼びだされ」
その男――、乱道法師は、そこそこ若く見える男であり、そのニヤケ顔にはなにか含みが見えたが、それでもその時の上手な口車に乾重延は乗ってしまったのである。
「なるほど……、そのような事で平安京を追われて……、それはお労しい」
「く……、あの安倍晴明も、蘆屋道満とかいう若造も――、私をいざと言うと切り捨てた兼家も、どうにかして恨みを晴らせぬものか
「くくく……それは好都合でございます」
そう言って乱道法師は笑う。
「わが秘術にあなたの恨みを晴らせる絶好の術がございます。私の策に乗ってみる気はありますか?」
その時、もはや全てがどうでも良くなっていた乾重延には、乱道法師の言葉が好ましいものに聞こえたのである。
そうして乾重延は、そのどこの誰とも分からぬ男の策に乗ってしまう。その先にどのような末路がるのかも知らず。
その”少女”は砂和の地の名もなき村で生まれ育った。少女は一見普通に見えたが、彼女は生まれつきある能力を持っていた。
それは火をともすこと。彼女の両親は、彼女のことを神がくださった神の子だと考えた。
しかし――、
ある日、少女は能力のことで、近所の子供たちにいじめられたことがあった。その時つい使ってしまったのだ、火をつける能力を。
それ以来、近所の子供はかりんのことを化け物と呼んで近づかなくなった。
両親は彼女のことをあからさまに疎むようになった。
そうして、少女は独りぼっちになった。
「おい! ……だ! ……が来たぞ!」
「げ……ほんとだ。逃げようぜ、燃やされるぞ」
「……まって! 私そんなことしないよ? 一緒に遊んでよ」
「やーだね! お前と遊ぶなってかーちゃんに言われてるからな!」
「逃げろ逃げろ! 化け物が来たぞ!!」
「私、化け物じゃないよ……。なんで……」
少女はその場にうずくまって涙を流す。それが、少女の日常だった。
そんな彼女を家の影から覗く者たちがいた。
「法師殿……本当にあの娘がそうなのですか?」
「ええ、間違いないですよ。彼女がいれば例の術は完成いたします」
「そうですか。ならば話は早い……」
二人の影のうち一人が少女に近づいていって話しかけた。
「君は……という名なのかね?」
「え?」
少女は突然話しかけられて驚いていた。
この村には、わざわざ少女と話をしようなどと思うものはいなかったからである。
「おじさんはだれ?」
少女はおずおずとそう答える。その男は努めて優し気に微笑むと言った。
「ああ、私は乾重延。君の事を助けに来たんだよ」
「君を助けに来た」男は確かにそう言った。少女はなんのことだかよくわからなかった。
「君……。他の人にはない能力を持っているね?」
「あ……」
少女は顔をひきつらせた。その能力は自分にとって忌むべきものだったからである。
「ああ……そんな顔をしなくてもいい。私は実は陰陽師でね」
「おんみょうじ?」
少女は陰陽師を知らなかった。慌てて、男は言い変える。
「ようするに……と同じ力を持つ仲間なのだよ」
「仲間?」
少女は驚いた。仲間などと呼ばれたのは初めてだった。
「もし、その能力で困っているなら。私が何とかしよう」
少女は自分のこの忌むべき能力を何とかできるならしたかった。だから、すぐに答えてしまった。
「おじさん! 私の能力を消してください!」
「ああ、そうかい? わかった。ではついておいで」
男は少女の手をつかむと村はずれに向かって歩き出す。
「おじさん。本当に力を消してくれるの?」
少女はもう一度男に聞いてみた。男は答える。
「ああ、任せてくれ大丈夫だよ」
男は彼女の手をつかんだまま速足で歩いていく。
彼女はそれに一所懸命ついていった。すると――、
「連れてきたようですね重延殿……」
家の影から知らない男が現れた。
「おお、法師殿、早速儀式をとり行ってくれ」
「はい、それでは準備に入りましょうか」
少女はその男から妙な気配を感じた。だから、重延に聞いてみた。
「あの、その人は?」
「この方は、君の能力を消してくれるありがたいお方だ」
重延はそう言ってにやりと笑う。嫌な予感がした。
「やっぱり私帰ります」
少女はそう言って男たちから離れようとした。しかし、重延は彼女を握った手を離さない。
重延はいやらしい顔で笑った。
「……ダメだよ? もう遅い」
突然重延が彼女を担ぎ上げる。少女は悲鳴を上げようとした。しかし――、
「急々如律令」
その言葉が聞こえたかと思うと。突然少女の意識が遠のいた。
「お父さん……お母さん……」
それが、そのとき少女が発した最後の言葉になった。
こうして少女は村から姿を消した。そして二度と戻ってくることはなかった。
それから行われた儀式は、もはや語る口を持たぬほど残酷極まりないものであった。
その少女は、生きたまま全身を刻まれ――、術によって意識を失うことも、死ぬことすらも許されず、絶望的な苦しみを受け続けたのである。
その光景は、悪辣な乾重延すら吐き気を催すほどであり、その儀式の果てにその少女はその身に濃縮された絶望を宿すに至り、そして――-、
「ナウマクサンマンダボダナンアギャナテイソワカ――」
乱道法師は儀式の最後に、乾重延の胸に刃を突き立てる。
「が――?!」
重延は突然のことに言葉もなく倒れた。
「フフフ……これで、儀式は完了です」
「法師……様、なぜ……」
「そういえば言っていませんでしたか? この儀式にはあなたの命も必要なのですよ……」
「が……は……」
「よかったではないですか。これであなたは、その身を怨霊と化して、憎き相手を祟り殺すことができますよ」
「法師……騙した……な」
「何も騙していませんよ? 初めから、私にとってあなたも『実験』の材料だっただけです」
「ら……乱道……ほぅ……し」
少女と重延、両者の体から光が立ち上り一つになっていく。
【ああああああああああああああ!!】
【アアアアアアアアアアアアアアア!!】
その時になってやっと少女は死ぬことが出来た。
◆◇◆
【ああ……、苦しい――、憎らしい】
その虚ろな瞳を道満に向ける乾重延。その身に宿る焔は、その魂の奥に縛り付けられている少女の炎である。
【うらめしい……、生者共よ――、我が炎で焼き尽くす。全てを灰に変えてくれよう】
道満はその声を聞いて鼻で笑う。
「てめえで罪を犯して平安京から追放されただけのことで、何をそんなに恨むか愚か者が。そう言うのを自業自得っていうのだ」
【蘆屋道満――、許さぬ! 貴様も我が呪いを受けよ】
「は――」
その瞬間、乾重延の言葉を聞いた道満はニヤリと笑った。その笑顔を不審な様子で見る乾重延。
「今の俺には貴様の焔病は効かんよ」
【なに?!】
「愚か者が――、この結界を誰が張っているのか、その足りない頭で理解するんだな」
【あ……】
道満の言葉で全てを理解した乾重延は周囲を見回した。
そして、その眼で周囲に漂う二つの神気を見たのである。
「拙僧の師、安倍晴明の十二天将――、貴人、そして玄武……、お前の焔病はもはや無に帰した。さあ尋常に勝負と行こうぜ」
【……く】
懐から呪符を数枚取り出す道満に、乾重延は憎々しげな目を向けた。
「てめえがどんなに苦しんでその姿になったかはしらねえ。だが――、都の罪なき人々の平穏を脅かす貴様を許しはしない」
【おのれ……晴明……、おのれ……道満】
乾重延はその身にまとう瘴気を全力で解き放つ。それをまともに受けても道満は平然として笑う。
「急々如律令!!」
道満のその叫びとともに無数の呪符が宙を舞う。
かくして、月下の平安京に怨霊と陰陽師の一騎打ちが始まる。
――果たしてその勝者は?
それはかつて、愚かしい策を弄し、それ故に道満たちに阻まれ、自らの罪をその身で贖った愚か者である。
しかし、その精神性故に道満達を逆恨みすること甚だしく、その身を怨霊に窶してこの平安京へと舞い戻った。
その裏には、かの藤原満忠――、すなわち死怨院乱道の影があったが、それは道満たちはこの時点で知ることはなかった。
【あああ……、こうなればもはや全てはどうでもよいこと。このまま兼家が自らの責で死ぬさまを見たかったが】
「ふん……、今までは手加減していたとでも言うつもりか?」
【だとしたらどうする?】
道満は慎重にその認識眼で乾重延を見つめる。
かの怨霊の言葉が決してハッタリばかりでないことは、彼にははっきりと理解できた。
(――しかし、おかしい。何だ? コイツの身に感じる違和感は……)
道満はその怨霊の霊質に妙な違和感を覚えていた。
そもそも、目前の乾重延から、怨霊独特の狂気をそれほど感じなかったからである。
(怨霊というのは、一つの感情を死を超えるほどの強さで得たゆえに生まれる存在――、この男のような半ば理性的な言動を行えるのは明らかにおかしい)
――そう、実はそれこそが死怨院乱道によって生み出された、人造怨霊ゆえの特性であったが、このときの道満はその事情を気づくことはない。
【はははは……、我はもはやそのために行動する以外に道はない。そう――、このような浅ましい姿になったからには】
乾重延はかつてを思い出す。
自らがこのような姿に成り果てた……、その時の全てを。
【ああ……乱道法師――】
◆◇◆
それは、もはや彼自身覚えてはいないかつてのあの日、乾重延は”あの男”と偶然出会った。
無論、それは彼だけが偶然だと考えているだけで、その”男”にとっては必然でしかなかったが――。
「乾重延……様ですね?」
「む……お主は、どこかで?」
「いえいえ……、私はただの旅の僧。乱道法師……そうお呼びだされ」
その男――、乱道法師は、そこそこ若く見える男であり、そのニヤケ顔にはなにか含みが見えたが、それでもその時の上手な口車に乾重延は乗ってしまったのである。
「なるほど……、そのような事で平安京を追われて……、それはお労しい」
「く……、あの安倍晴明も、蘆屋道満とかいう若造も――、私をいざと言うと切り捨てた兼家も、どうにかして恨みを晴らせぬものか
「くくく……それは好都合でございます」
そう言って乱道法師は笑う。
「わが秘術にあなたの恨みを晴らせる絶好の術がございます。私の策に乗ってみる気はありますか?」
その時、もはや全てがどうでも良くなっていた乾重延には、乱道法師の言葉が好ましいものに聞こえたのである。
そうして乾重延は、そのどこの誰とも分からぬ男の策に乗ってしまう。その先にどのような末路がるのかも知らず。
その”少女”は砂和の地の名もなき村で生まれ育った。少女は一見普通に見えたが、彼女は生まれつきある能力を持っていた。
それは火をともすこと。彼女の両親は、彼女のことを神がくださった神の子だと考えた。
しかし――、
ある日、少女は能力のことで、近所の子供たちにいじめられたことがあった。その時つい使ってしまったのだ、火をつける能力を。
それ以来、近所の子供はかりんのことを化け物と呼んで近づかなくなった。
両親は彼女のことをあからさまに疎むようになった。
そうして、少女は独りぼっちになった。
「おい! ……だ! ……が来たぞ!」
「げ……ほんとだ。逃げようぜ、燃やされるぞ」
「……まって! 私そんなことしないよ? 一緒に遊んでよ」
「やーだね! お前と遊ぶなってかーちゃんに言われてるからな!」
「逃げろ逃げろ! 化け物が来たぞ!!」
「私、化け物じゃないよ……。なんで……」
少女はその場にうずくまって涙を流す。それが、少女の日常だった。
そんな彼女を家の影から覗く者たちがいた。
「法師殿……本当にあの娘がそうなのですか?」
「ええ、間違いないですよ。彼女がいれば例の術は完成いたします」
「そうですか。ならば話は早い……」
二人の影のうち一人が少女に近づいていって話しかけた。
「君は……という名なのかね?」
「え?」
少女は突然話しかけられて驚いていた。
この村には、わざわざ少女と話をしようなどと思うものはいなかったからである。
「おじさんはだれ?」
少女はおずおずとそう答える。その男は努めて優し気に微笑むと言った。
「ああ、私は乾重延。君の事を助けに来たんだよ」
「君を助けに来た」男は確かにそう言った。少女はなんのことだかよくわからなかった。
「君……。他の人にはない能力を持っているね?」
「あ……」
少女は顔をひきつらせた。その能力は自分にとって忌むべきものだったからである。
「ああ……そんな顔をしなくてもいい。私は実は陰陽師でね」
「おんみょうじ?」
少女は陰陽師を知らなかった。慌てて、男は言い変える。
「ようするに……と同じ力を持つ仲間なのだよ」
「仲間?」
少女は驚いた。仲間などと呼ばれたのは初めてだった。
「もし、その能力で困っているなら。私が何とかしよう」
少女は自分のこの忌むべき能力を何とかできるならしたかった。だから、すぐに答えてしまった。
「おじさん! 私の能力を消してください!」
「ああ、そうかい? わかった。ではついておいで」
男は少女の手をつかむと村はずれに向かって歩き出す。
「おじさん。本当に力を消してくれるの?」
少女はもう一度男に聞いてみた。男は答える。
「ああ、任せてくれ大丈夫だよ」
男は彼女の手をつかんだまま速足で歩いていく。
彼女はそれに一所懸命ついていった。すると――、
「連れてきたようですね重延殿……」
家の影から知らない男が現れた。
「おお、法師殿、早速儀式をとり行ってくれ」
「はい、それでは準備に入りましょうか」
少女はその男から妙な気配を感じた。だから、重延に聞いてみた。
「あの、その人は?」
「この方は、君の能力を消してくれるありがたいお方だ」
重延はそう言ってにやりと笑う。嫌な予感がした。
「やっぱり私帰ります」
少女はそう言って男たちから離れようとした。しかし、重延は彼女を握った手を離さない。
重延はいやらしい顔で笑った。
「……ダメだよ? もう遅い」
突然重延が彼女を担ぎ上げる。少女は悲鳴を上げようとした。しかし――、
「急々如律令」
その言葉が聞こえたかと思うと。突然少女の意識が遠のいた。
「お父さん……お母さん……」
それが、そのとき少女が発した最後の言葉になった。
こうして少女は村から姿を消した。そして二度と戻ってくることはなかった。
それから行われた儀式は、もはや語る口を持たぬほど残酷極まりないものであった。
その少女は、生きたまま全身を刻まれ――、術によって意識を失うことも、死ぬことすらも許されず、絶望的な苦しみを受け続けたのである。
その光景は、悪辣な乾重延すら吐き気を催すほどであり、その儀式の果てにその少女はその身に濃縮された絶望を宿すに至り、そして――-、
「ナウマクサンマンダボダナンアギャナテイソワカ――」
乱道法師は儀式の最後に、乾重延の胸に刃を突き立てる。
「が――?!」
重延は突然のことに言葉もなく倒れた。
「フフフ……これで、儀式は完了です」
「法師……様、なぜ……」
「そういえば言っていませんでしたか? この儀式にはあなたの命も必要なのですよ……」
「が……は……」
「よかったではないですか。これであなたは、その身を怨霊と化して、憎き相手を祟り殺すことができますよ」
「法師……騙した……な」
「何も騙していませんよ? 初めから、私にとってあなたも『実験』の材料だっただけです」
「ら……乱道……ほぅ……し」
少女と重延、両者の体から光が立ち上り一つになっていく。
【ああああああああああああああ!!】
【アアアアアアアアアアアアアアア!!】
その時になってやっと少女は死ぬことが出来た。
◆◇◆
【ああ……、苦しい――、憎らしい】
その虚ろな瞳を道満に向ける乾重延。その身に宿る焔は、その魂の奥に縛り付けられている少女の炎である。
【うらめしい……、生者共よ――、我が炎で焼き尽くす。全てを灰に変えてくれよう】
道満はその声を聞いて鼻で笑う。
「てめえで罪を犯して平安京から追放されただけのことで、何をそんなに恨むか愚か者が。そう言うのを自業自得っていうのだ」
【蘆屋道満――、許さぬ! 貴様も我が呪いを受けよ】
「は――」
その瞬間、乾重延の言葉を聞いた道満はニヤリと笑った。その笑顔を不審な様子で見る乾重延。
「今の俺には貴様の焔病は効かんよ」
【なに?!】
「愚か者が――、この結界を誰が張っているのか、その足りない頭で理解するんだな」
【あ……】
道満の言葉で全てを理解した乾重延は周囲を見回した。
そして、その眼で周囲に漂う二つの神気を見たのである。
「拙僧の師、安倍晴明の十二天将――、貴人、そして玄武……、お前の焔病はもはや無に帰した。さあ尋常に勝負と行こうぜ」
【……く】
懐から呪符を数枚取り出す道満に、乾重延は憎々しげな目を向けた。
「てめえがどんなに苦しんでその姿になったかはしらねえ。だが――、都の罪なき人々の平穏を脅かす貴様を許しはしない」
【おのれ……晴明……、おのれ……道満】
乾重延はその身にまとう瘴気を全力で解き放つ。それをまともに受けても道満は平然として笑う。
「急々如律令!!」
道満のその叫びとともに無数の呪符が宙を舞う。
かくして、月下の平安京に怨霊と陰陽師の一騎打ちが始まる。
――果たしてその勝者は?